『Dairy Japan 2023年10月号』p.49「連載・あなたは乳牛をどこまで知っていますか?・ファイル31」より
牛が乳牛として育種改良されてきた理由の一つに「温和で記憶力が良く、慣れやすく、習慣性動物であること」があります(『乳牛管理の基礎と応用』弊社刊より)。
しかし、乳牛個体とって「初めてのモノ」にはビクビクで、それはヒトが思っている以上のようです。
そのことを田中義春氏(デーリィサポート・タナカ、元・北海道専門技術員。以下、著者)が解説してくださいました。
●初めての施設や機械は驚異だ
乳牛は施設や機器の高度化・複雑化に違和感を覚える、と著者は言及します。自動給飼機、自動スクレーパー、連動スタンチョン、ウォータカップ、搾乳ロボット、フィードステーションなどを例にあげ、初めてのときは、あるいは馴れるまで、「恐怖そのもの」「理解できない」「苦痛そのもの」と牛の気持ちを代弁しています。
●初産牛はイジメで事故が発生する
初産牛は基本的に健康なはずです。ところが群全体の初産牛と2産牛割合は除籍率が50%を超える事例もあるそうです。また潜在性ケトーシスが分娩直後で非常に高いこともわかっています。
その理由について著者は、「哺乳から育成までは優しいまなざしが注がれ、広いパドックで自由が保たれ、仲間数頭のグループで飼われる。このように育てられた育成牛が、分娩前後を機に、住むところも食べるものも仲間も激変するから」と述べています。
●新たな施設やエサは馴致が必要だ
そうしたトラブルを避け、早く環境に適応するためにも、搾乳牛の牛舎レイアウト、繋ぎ、牛床、飼槽、水槽……などの施設や機器は育成時に馴らしておきたいものです。
繋ぎ牛舎では、最初に繋ぐ初妊牛は隣ストールを一つ空けるか、通路側の端、できれば初産牛の隣にすることを著者は推奨しています。フリーストール牛舎への移動は1頭だけでなく複数頭で、日中でなく夜間に行なうと良いそうです。
●人より仲間からが覚えは早い
牛は個より群を好み、集団内でお互い刺激しながら能力を発揮する生き物だ、と著者は言い、隣の牛を真似ることで新しい環境に早く順応することを解説しています。
ゆえに初体験の牛は、姉さん牛を見られる位置に置くことで真似でき、エサの食べ方、水の飲み方、乳の出し方、移送の仕方、仲間との付き合い方……あらゆることを覚えていきます。
ヒトから教えられるより仲間や先輩から学びながら、牛同士で学習するほうが覚えは断然早い、と著者はまとめています。
PROFILE/ 筆者プロフィール
小川諒平Ryohei Ogawa
DairyJapan編集部。
1994年生まれ、千葉県出身で大学まで陸上競技(走り高跳び)に励む。
趣味はサッカー観戦。
取材先で刺激を受けながら日々奮闘中。
皆さんに有益な情報を届けるために全国各地にうかがいます。