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良い草を育てるための良い土と菌の話9:草が焼ける原因は三つの「すぎる」

JOURNAL 2025.08.13

今村 太一

今村 太一Imamura Taichi

 北海道では牧草の収穫が一段落し、スラリー散布が始まりました。スラリーは貴重な肥料源ですが、「雨の前に撒く」のはなぜでしょうか? 今回はその理由を、スラリーの構成から具体的に見ていきましょう。

草が焼けるとは?

 「草が焼ける」とは、スラリーを撒いた後に草が黄色く枯れてしまう現象を指します。主な原因は、次の三つです。

•濃すぎる
•アンモニア
•酸欠

 ピンとこない方も多いかもしれません。私自身も、かつては悩みました。

1. 濃すぎる

 皆さんはスラリーの分析をしたことがありますか? もしまだなら、一度検査することをおすすめします(道東の方はsoilにご相談ください!)。
 その際に確認するのが「EC値」です。
 「EC」とは、植物が利用可能な(イオン化された)肥料分の濃度を示します。

 「じゃあ、濃いほうが良いのでは? 」と思いがちですが、実際の基準値は1.5から3。38kg/日で搾乳している、とある牛群のスラリーを分析したところ、「10」という結果でした。これは明らかに濃すぎます。

 理由は「浸透圧」です。

 皆さんもパスタを茹でるときに塩を入れますよね? あれは味付けだけでなく、「パスタが水を吸いすぎないように」する目的もあります。同様に、土壌のECが高すぎると植物は水を吸収できなくなり、逆に水が根から抜けてしまうことも。その結果、「枯れた」ように見えるのです。

2. アンモニア

 アンモニアは肥料として有用な一方、pHが高く、毒性もあります。

 具体的には、
•根を傷つける
•気化して柔らかい葉を焼く
 といった形で、植物にダメージを与えます。

 その主な原因は、未消化の蛋白質(例:大豆や菜種)です。これは次の「酸欠」とも関係しますので、少し分解の過程を見ていきましょう。

スラリーに含まれるアンモニアの基は?

•尿素(牛体内で自然に生成)

•未消化の蛋白質(飼料に由来)

 未消化蛋白質が多いという問題です。その判断基準の一つが「散布後の臭いの持続時間」です。長く臭う場合は、未消化物が多いというサインです。

臭いが発生するタイミング

 これはある程度仕方ありません。硫化水素やインドールなどが原因です。

1. 尿素が土壌に触れたとき

 尿素は土中で「ウレアーゼ」という酵素と反応し、すぐにアンモニアに分解されます。

2. 未消化蛋白質が分解されたとき

 蛋白質 → アミノ酸 → アンモニア
 という流れでゆっくり分解され、時間とともに臭いが続きます。
 途中でお気づきの方もいるかもしれませんが、臭いの長さは「未消化蛋白質の量」によって左右されます。つまり、多いほど畑の臭いが長く残り、苦情の原因にもなります。

3. 酸欠

 土壌菌が未消化蛋白質を分解する際、酸素を消費します。その結果、土中の酸素が不足し、植物が必要とする酸素まで奪われてしまうのです。

 今回は蛋白質を中心に解説しましたが、未消化の「デンプン」や「油脂」も同様に問題を引き起こすため注意が必要です。

未消化を防ぐには?

 基本的には「菌の力」に頼るしかありません。撹拌して酸素を供給する、糖分を加えるといった方法もありますが、いずれも目的は「菌が分解できる環境を整えること」です。これにより、アンモニアや酸欠による焼けのリスクが下がり、臭いも早く収まります。
 焼けない草を育てるには、スラリーや堆肥の「発酵段階」にもっと注目していきましょう!

PROFILE/ 筆者プロフィール

今村 太一

今村 太一Imamura Taichi

標茶町を拠点に、土壌改良資材の販売や周辺酪農家さんのサポートをする「soil」の代表。飼料会社に13年勤めた後、ドライフラワーやマツエク、ネイルのお店を経営。弟と一緒にsoilを立ち上げ、今は土や牛、人とのつながりを大事にしながら活動中。

経営やコーチング、微生物の話が好きです。「目の前の人に丁寧に」が大切にしている想いです。

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