
前回から間が空いてしまいましたが、今回は、酪農現場での労働力不足にどんな対策が行なわれているのかをご紹介しようと思います。
酪農現場での労働力不足は日本だけでなく、欧米など主要な酪農国でも課題となっています。それに対して、どんな対策がとられているのかも、日本の関係者が気になるところだと思います
(なお、以下の情報は、その国や地域でどれほど一般的に行なわれているものなのかは不明ですのでご了承ください)。
まず米国から。家族経営型酪農が中心といわれるウィスコンシン州。低失業率のなか、酪農家は「年に一度の感謝イベントや月間最優秀従業員プログラム、ハロウィーンのような祝祭日には楽しいコンテストを開催し、従業員の士気を高めている」との報道がありました。「健康保険や有給休暇のような伝統的なものから、作業着手当のようなユニークなものまで、労働者に提供できる福利厚生全般について考えている」と言います。手頃な価格の住宅が地域に不足しているため、農場の近くに賃貸住宅を提供することが大切になっているとも。
この記事で、飼養頭数2800頭、従業員75人がいる酪農場のゼネラル・マネジャーは「ここ数年、従業員にとって、私達の取り組みやトレーニング、成長の機会はすべて大きな意味を持つようになった。成長の機会があり、新しいことを学べ、昇進できるような仕事を提供できれば、従業員はわくわくする」とコメントしていて、魅力ある職場としていかに従業員(求職者)にアピールするかに心を砕いていることが感じられます。
次に、ニュージーランドの取り組みです。同国最大の酪農団体デーリーNZは「酪農の素晴らしい将来(Great Futures In Dairying)」と題した2022年から2032年の長期プランで、酪農部門で約4000人の労働力が不足しているとの調査結果を示すとともに、次の表のように課題や行動計画を掲げています。

この表で、例えば右から2列目の「①シェイプアップ」とは、競争力を高め、従業員を成長させ定着させるための取り組みを指し、これに対応する取り組みとして「良い労働者を認定する」ことなどがあげられています。そのために必要になることとして、雇用慣行の“業界標準”の設定、優良雇用主として差別化するためのツールの酪農家への提供などを掲げています。
この「良い労働者を認定する」について、より具体的に、
[デーリーNZ]
・既存の作業を基にして農家リーダーとともに業界標準を作る。
・業界標準を推進し、それを満たす企業を認定する手段を提供する。
[乳業メーカー]
・供給契約を含むがこれに限定されない、変化をサポートするために使える可能性のある方法を調査する。
[政府]
・職場の質を評価するための一貫したツールとして業界標準を採用し、政府のチャンネルを通じて従業員にアクセスできるようにする。
[農村の専門家]
・業界標準を推進する。
[農家]
・認定を取得する。
などと、立場ごとに求められる取り組みを掲げています。
ほかにも、労働力確保は主要酪農国で共通の課題になっているもようですから、同様の情報をウェブでも見つけることができます。
ところで、こうした労働力確保対策に関する情報を読んでいて気づくのですが、酪農現場での求人を呼びかけるサイトなどで「(酪農は)単なる仕事ではない((Dairy is) not just a job)」というフレーズがよく使われています。例えば、デーリー・オーストラリアのサイトでは「もっと健康的な世界への貢献」のタイトルで、「酪農は単なる仕事ではなく、国や世界を養うためのライフスタイルなのです」「酪農は、地域にとって重要な役割を果たす不可欠な産業です。オーストラリアの酪農産業で働くということは、地域社会やビジネスに積極的に貢献するということ。また、より高い目的の一部であり、より健康的な世界のために栄養価の高い食品を提供する集団的努力の一部でもあります」と記されています。
これは、毎朝暗いうちから作業があり、平日の9時から5時まで働けばよいというものでもなく、また牛の世話や健康管理だけで完結するものでもないというところから生み出されたフレーズかもしれませんが、「貢献」や「ライフスタイル」といった言葉に敏感な若い世代に響くための工夫でもあるのだと思います。労働力確保のために、酪農という存在の「伝え方」も、より現代的なものが求められているのかもしれません。
PROFILE/ 筆者プロフィール

一般社団法人Jミルク
酪農・乳業に加え、牛乳販売店の団体など、計23の正会員、95の一般・特定賛助会員(個人を含む、2024年4月現在)でつくる業界団体です。おもに、生乳・牛乳乳製品の需給や生産流通の安定、牛乳乳製品の栄養や健康に関する啓発、学校給食などを通じた牛乳の飲用習慣の定着、国際機関との連携や情報交換、およびそれらの理解促進や広報などを行なっています。最近は、酪農乳業の歴史に関する資料の収集や調査なども行なっています。事務所は東京・お茶の水にあります。