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地域を守るバイオセキュリティセミナー開催
十勝農場バイオセキュリティ協議会は2024年12月19日、「第1回地域を守るバイオセキュリティセミナー」を開催しました。昨今、サルモネラ症が全国の養牛・養豚現場で流行した事例があり、それを問題視した同会が「感染症は畜種単位ではなく、地域単位で発生する」と捉え、畜産業のなかでも厳しいバイオセキュリティ(以下、BS)基準を設ける養豚業界の事例を学ぶ場として開催されました。酪農・養牛業界の生産者および技術者など約50名が参加しました。
講演内容は以下のとおりです。
1)周辺国と日本での感染症発生状況(宮澤 和貴氏:十勝家畜保健衛生所 予防課 主査)
2)養豚場でのバイオセキュリティ強化~悲惨な目に遭う前に(大竹 聡氏:㈱スワイン・エクステンション&コンサルティング)
3)農場バイオセキュリティ強化と農場HACCP・JGAPの取り組み(福中 夏生氏:Farm to Spoon)
4)養豚場×牛農場~養豚場訪問レポート(加藤 慎二氏:ドリームポーク、佐藤 雅子氏:広振ファーム佐藤牧場(肉牛)、福中 夏生氏)
バイオセキュリティ実践の理論
養豚業界専門のコンサルティング獣医師として活動する大竹氏は、近年の畜産業界におけるBSは畜種を超えて地域単位で考える段階に入っていると述べました。
「バイオセキュリティ」という言葉は浸透しているものの、「やったほうが良いこと」という感覚的な認識に留まっている現状に危機感を示しました。BSは「科学的根拠に基づき、農場で実践されるべき事柄」と定義し、効果的なBSの条件として以下の5つを挙げました。 1)科学的根拠に基づく 2)現場で実践可能 3)継続可能 4)費用対効果が高い 5)数値化・測定可能
また、感染症の発症は宿主(動物・人)、病原体、環境の3要素が揃って成立するため、そのどれかを断ち切ることが必要であると説明しました。BSの基本原則として、「侵入させない」「広げない(増やさない)」「持ち出さない」の3つを徹底し、地域全体で取り組むことが理想であると述べました。
現在では畜種間を超えて感染する病原体が珍しくなく、一度の感染で多大な被害を受ける可能性があります。BSの徹底は地域全体の畜産業者を守るだけでなく、自身の農場の安全・収益を守ることにつながると強調しました。
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養豚場に学ぶバイオセキュリティの実践
農場訪問レポートでは、肉牛農場を経営する佐藤氏が養豚場(ドリームポーク)を訪問し、BSの実際を視察した報告が行われました。
養豚場では、車の乗り入れエリアを明確に区分し、場内に入る際には検温を実施し、体調に異常がないことを確認。さらに、持ち物の消毒、シャワー室での全身洗浄、場内貸し出しの衣服への着替えを義務付けるなど、徹底したBS対策が実施されていました。
豚舎内には洗浄箇所が多数設けられ、長靴を常に洗浄できる環境が整備されています。また、汚染エリアから衛生エリアへの移動が制限され、作業動線を適切に管理することで、汚れや病原体の拡散を防ぐ対策が徹底されていました。
さらに、害虫・害獣対策にも注力しており、殺鼠剤を活用するなど、被害を最小限に抑える工夫がなされていました。
視察を終えた佐藤氏は、養豚業界のBSの厳しさに驚きつつ、養牛業界でもこまめな洗浄を取り入れるなど、できるところから対策を実施していると述べました。BS対策は作業の増加を伴うものの、予防の重要性を再認識し、農場内での意識向上に努めている様子が報告されました。
PROFILE/ 筆者プロフィール
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前田 真之介Shinnosuke Maeda
Dairy Japan編集部・北海道駐在。北海道内の魅力的な人・場所・牛・取り組みを求めて取材し、皆さんが前向きになれる情報共有をするべく活動しています。
取材の道中に美味しいアイスと絶景を探すのが好きです。
趣味はものづくりと外遊び。