今回は国際関係の話題です。
英国の公共放送BBCが9月に「酪農家が労働力不足のために生乳生産を削減」と報じるなど、酪農現場での労働力不足が社会的な関心を集めました。ソースは、同国内最大の酪農協同組合であり乳業会社でもあるアーラ・フーズ社(本社・デンマーク)が、英国の約500戸の酪農家に行なった概況調査の結果です。同社の発表では、次のことを主要な結果としてあげています(ホームページで公開されています)。
・(酪農家の)56%が、2019年と比べ、作業スタッフの確保が難しくなっていると回答。
・8.5%が労働力不足のために生乳生産量を減らしている(2023年の5.5%から増加)。
・10.6%が牛の飼養規模を縮小せざるを得ないと回答(2023年の9%から増加)。
・16%が離農を検討すると回答(2023年の12%から増加)。
・欠員補充を考えている酪農家の86%が、応募者がほぼいないか、応募者中に適切な資格を持っている人がいなかったと回答。
BBCの記事は、酪農家の声を紹介しています。それは「酪農場を散歩していると、近くの農家とばったり会うたびに、彼らが最初に口にするのは人材確保と採用のことだ」というもの。日本の酪農現場でも以前から聞かれている悩みであり、親近感を覚えます。
とはいえ、現代的な課題もあります。それは「現代の酪農経営は熟練を要する仕事だが、必要なスキルが混在しているため、適切な人材を見つけるのが難しいことが多い」こと。
記事に沿い、「適切な人材」についてのポイントを整理して紹介しますと、
・動物が好きで、現代酪農のハイテク性にも対応できる人材が必要。
・つまり、データ処理やコンピューターだけでなく、ロボット工学や遺伝学の素養も必要。
・個々の牛にはセンサーがついており、繁殖能力から健康状態まであらゆる情報を得られる。
・ロボット搾乳パーラーが普及してきたことで、(酪農の作業に従事する人は)その仕組みと、どうすればそれを維持できるかを理解する必要がある。
酪農の現場で求められる知識やスキルが以前より増えている、またはより専門的になっているということですね。
アーラ社の生産担当副社長は「技術とオートメーションの進歩で、私達はより効率的になっているはずだが、それでもなお、食品サプライチェーンに適切なスキルを持った人材を採用することがますます難しくなっている」とコメントしています。
米国でも、地域によって状況は異なるようですが、労働力を確保するのに酪農家が苦心している、ということが伝えられています。伝統的に家族経営が中心といわれるウィスコンシン州発の報道では、「搾乳のためのコンピューター・プログラム、エサやりのためのプログラム、トウモロコシの作付けと収穫のためのトラクター・プログラム、トウモロコシと乾草のためのプログラムがある。大量のエクセルシートを使っているが、これらの分野すべてを本当に理解している人を見つけるのは難しい」という酪農家の声が紹介されていて、なるほどそういうことかと得心しました。
酪農の労働力不足は、10月にフランス・パリで開かれた世界酪農連盟(IDF)の「世界酪農サミット2024(World Dairy Summit 2024)」でも、主要テーマの一つになりました。国ごとに状況や制度など異なる点も多い(例えば移民関係)とはいえ、
・規模は拡大し、家族経営から外部労働力への依存や技術の進歩、効率の向上へと移行している。
・畜産に関する伝統的な知識だけでなく、より広範なスキルが求められる。
といったことが、まとめとして報告されたようです。
酪農現場での労働力不足は、日本だけではなく、欧米など酪農の主要生産国でも課題になっています。それに対して各国ではどんな対策をとっているのかも気になるところとは思いますが、それは回を改めることにして、今回はここまでにしたいと思います。
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PROFILE/ 筆者プロフィール
一般社団法人Jミルク
酪農・乳業に加え、牛乳販売店の団体など、計23の正会員、95の一般・特定賛助会員(個人を含む、2024年4月現在)でつくる業界団体です。おもに、生乳・牛乳乳製品の需給や生産流通の安定、牛乳乳製品の栄養や健康に関する啓発、学校給食などを通じた牛乳の飲用習慣の定着、国際機関との連携や情報交換、およびそれらの理解促進や広報などを行なっています。最近は、酪農乳業の歴史に関する資料の収集や調査なども行なっています。事務所は東京・お茶の水にあります。