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子牛に初乳を届けるということ

JOURNAL 2025.10.09

宮島 吉範

宮島 吉範Yoshinori Miyajima

 子牛に初乳を与えるという仕事は非常に難しいものです。牛の初乳には、図1のように子牛にとって多くの重要な物質が含まれています。解明されている物質でもこれほどあるので、まだ未解明な物質も存在しているかもしれません。

 図の成分以外にも、初乳には白血球などの免疫細胞もたくさん含まれています。「免疫細胞とは何か?」という方は、「はたらく細胞」というアニメか映画を観てみると良いでしょう。映画では俳優の佐藤健さんが免疫細胞の一つである白血球を演じており、顔が白塗りで武器を持ち、体に入ってきた有害な物質(細菌など)と闘っていました。ほかにもさまざまな免疫細胞があるのですが、ひとまずそのようなイメージで理解してください。

 では、「初乳を上手に与える」とはどういうことでしょうか。さまざまな基準があると思いますが、大昔の牛の姿を想い返してみると、その答えに近づけるかもしれません。

 大昔、草原で牛が暮らしていた頃、そこは糞尿では汚れてはいませんでした。母牛はきっと広い草原の綺麗な場所を選んで分娩したと思います。生まれた子牛は立ち上がった後、乳頭を探し当てて、満足するまで思いっきり初乳を飲んだに違いありません。もちろん、その乳頭には多少の土は付いていたかもしれませんが、糞尿で汚れてはいなかったはずです。

 しかし今の時代、酪農の現場では、そのような綺麗な場所で子牛を産める環境が整っていないケースがほとんどかと思います。下の写真1は、繁殖和牛農家さんで生まれた子牛ですが、綺麗に整えられた環境で、子牛が母牛の乳首に吸いつき、無心に初乳を飲んでいます(母牛から直接飲むことが良いと言っているわけではありません)。

 分娩する場所が清潔かなど、現場では初乳を与える際にさまざまな問題や壁があります。その障害を乗り越え、さまざまな方法を駆使して、皆さんは子牛に初乳を与えているのだと思います。

 初乳給与を考えるうえで、自分が好きな、そして衝撃を受けたのが写真2写真3です。

 写真2は、初乳給与後に初乳が、どのように吸収されていくかを示しています。赤く囲んでいる部分が初乳の重要成分である抗体です。何も障害がないと抗体は、このように吸収されていきます。

 写真3は、大腸菌の侵入を許している子牛の腸の写真です。写真2にあるような整った腸の構造が、菌によって破壊されており、抗体が入り込む隙間もなく、菌がぎっしり詰まっています。このような状態では、抗体が入っても細菌に負けてしまいます。

PROFILE/ 筆者プロフィール

宮島 吉範

宮島 吉範Yoshinori Miyajima

千葉県の一般家庭に生まれる。麻布大学 栄養学研究室を卒業後(有)あかばね動物クリニックに入社し獣医師として25年。現在は、乳牛・肥育牛(主に交雑種)・繁殖和牛を担当する。乳牛においては診療・繁殖検診・搾乳立会・人工授精・受精卵移植・コンサルティングなどを行なう。趣味は妻との居酒屋や蕎麦屋巡り。

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