『Dairy Japan』2024年6月号p.38「ルポ1」より
酪農家戸数は全国的に減少傾向にあります。しかし一方で、酪農家になることを志し、新規就農を実現させた方も多くいます。今回は『Dairy Japan2024年6月号』から、新規就農を成功に導くポイントをご紹介します。
目指すならば経営の成功を目指して
北海道浜中町の水本康洋さんは、実家の酪農場で酪農経営や飼養管理を学び、農場マネジメントの経験を長年積んできました。その後、自身の理想の酪農を追い求めるため、意を決して新規就農の道へ。
新規就農に当たって重要なのは、募集する地域や農協は「酪農の良い面も厳しい面も包み隠さずありのままを伝えること」、また就農希望者は「絶対成功させるという強い意志を持つこと」だと水本さんは語ります。
一気に乳量を伸ばそうとしない
水本さんの就農形式は、離農した農場を引き継ぐ形での経営継承でした。就農当初の乳量は年間約6500kg/頭。乳量や繁殖成績などは水本さんの理想とは程遠く、大幅な改善がスタートしました。「牛の能力を高める段階と乳量を伸ばす段階を慎重に検討する必要があった」と水本さんは言います。
一気に乳量だけ求めてしまうと、牛の能力が伴わず他方に問題が生じます。就農時から3年、5年と期間ごとの目標を設定し、徐々に理想に近づける計画を立てることとしました。
また、何か一分野に集中して改善するのでなく、全体を見ながら満遍なく改善していくことが重要と水本さんは言います。
まずは牛群改良から
好成績を残すための牛作りが重要項目と捉える水本さんは、まずは近交係数を下げるために多種類の精液を活用して授精を行ないました。その後、もともとの牛は積極的に淘汰し、自身で育てあげた牛群で揃えました。そこから改良スピードや管理レベルを引き上げ、現在は21カ月齢で初産分娩を迎えるまでになりました。繋ぎ牛舎だからこそ、作業性の高い牛=ロボット搾乳用の精液を積極利用したと言います。
搾乳が始まってから計画を立てるのでは遅い!?
これらの目標設定や戦略を、水本さんは就農して搾乳作業が始まる前に考えて準備していました。その時間があったからこそ、今の管理ができているということでした。
しかし新規就農者は酪農経験が豊富でない場合もあります。しっかり知識や技術を学んだうえで実習など経験を重ねることができれば、スムーズに就農できるのではと水本さんは話します。
水本さんは常に乳量の目標を見える位置に貼り、確認できるようにしています。
当然、今後も新規就農者は増えてほしいものですが、水本さんは、大切なことを忘れないでほしいと言います。それは「道徳心を持って酪農経営をすること」です。酪農とは、牛を飼い食品を生産する社会的責任が大きい職業。常に農場の環境や牛の健康・衛生に気を遣うことが大切です。水本さんの場合、その結果として、病気やトラブルが減り、収益UPにもつながりました。
PROFILE/ 筆者プロフィール
前田 真之介Shinnosuke Maeda
Dairy Japan編集部・北海道駐在。北海道内の魅力的な人・場所・牛・取り組みを求めて取材し、皆さんが前向きになれる情報共有をするべく活動しています。
取材の道中に美味しいアイスと絶景を探すのが好きです。
趣味はものづくりと外遊び。