酪農技術情報

乾乳牛舎導入で大きく変わった

JOURNAL 2024.07.02

前田 真之介

前田 真之介Shinnosuke Maeda

『Dairy Japan』2024年4月号p34 「ルポ1」より

Dairy Japanショップ

 分娩・周産期管理のポイントをテーマとした本ルポで、北海道大空町東藻琴の西牧場さんを取材しました。経産牛142頭、未経産牛120頭に加え、和牛繁殖親牛59頭、和牛素牛30頭を管理する乳肉複合経営の農場です。

 地域のNOSAI獣医師・山崎毅朗先生が「西牧場さんは常に治療費が少ない」と絶賛する管理はどのようなものなのかを、お聞きしました。

かつては病気に悩んでいた

 代表の西克栄さんは「以前は乾乳牛の飼養環境が悪く、年に何頭も周産期疾病が発生し悩んでいた」と振り返ります。当時の西牧場の乾乳牛飼養環境は、ベッドのみの牛舎と屋外に簡易的な飼槽がある程度で、エサが雨ざらしになり変敗することもあったようです。当然それでは満足な給飼ができませんでした。「何とかしたい」と思いつつも小手先の環境改善には限界がありました。

搾乳ロボット導入と乳量増がきっかけで

 そんな西さんに転機が訪れたのは、搾乳ロボットの導入でした。導入後、今以上の成績を求めるには、乾乳牛飼養環境の大幅改善が必要でした。そこで、意を決して乾乳牛舎を新設。乾乳前期ペン、後期ペン、分娩房、さらに内壁で仕切られた子牛ペンエリアという構造です。それ以降「乾乳牛の健康が一番」と考えるようになりました。フリーバーンの敷料は常に清潔に維持し、泌乳後期→乾乳前・後期→分娩→子牛ペンと、母牛と子牛の移動が最短になるレイアウトにするなど、ストレスのない管理を徹底しました。すると、そこからガラリと牛の状態が良くなり、分娩事故や周産期疾病は激減しました。

エサも乾乳牛最優先

 西牧場では乾乳牛用TMRを1日1回給与し、並行して乾草は飽食させています。牛がエサの切り替えにスムーズに対応できるように、搾乳牛用と乾乳牛用TMRで乾草とデントコーンの比率を揃えています。

 ここまで細やかな配慮をするのには、西さんの「重要な時期に手間とお金をかけることが大切」という考えがありました。おかげで周産期疾病で治療にかかるのは年に1・2回程度で済んでいます。

 「治療費削減はもとより、気持ちや時間の余裕がすごい」と西さん。

乾乳牛の様子を見るポイントは?

 西牧場の経営でひときわ注力されているのが乾乳牛管理ですが、四六時中観察しているわけではありません。西さんが乾乳牛の異変を見極めやすいポイントを教えてくれました。それは「1日1回の給飼のタイミング」です。西さんは毎日夕方に小型の自走式TMRミキサーで給飼しますが、そのとき、牛がどういう動きをするのかを注意深く観察します。すぐにエサを喰いに来ない牛は要注意です。

 また、FarmnoteColorからのデータをスマ―トフォンでチェックすることは欠かしません。

 さらに、農場全体で早期発見の意識を高く持ち、従業員にも「結果なんともなかったとしても、些細な変化があればすぐに教えてほしい」と周知徹底しています。こうした環境と管理の積み重ねが、良好な周産期管理を実現しているのでした。

番外編:子牛の衛生

 西牧場の健康な牛達の基礎になっているのが、子牛の飼養管理体制にあります。壁で仕切られた子牛ハッチスペースは換気・衛生を徹底し、敷わらが常に乾燥している状態を徹底していました。さらに使用後のハッチは毎回洗浄・消毒を行ないます。敷わらの濡れ防止には、勾配のある床面に、おがくずペレットを敷き、そのうえに敷わらを足していました。これにより「冷え予防と衛生管理はばっちり」と西さんは言います。健康な子牛があってこそ、健康な親牛ですね。

PROFILE/ 筆者プロフィール

前田 真之介

前田 真之介Shinnosuke Maeda

Dairy Japan編集部・北海道駐在。北海道内の魅力的な人・場所・牛・取り組みを求めて取材し、皆さんが前向きになれる情報共有をするべく活動しています。
取材の道中に美味しいアイスと絶景を探すのが好きです。
趣味はものづくりと外遊び。


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