酪農技術情報

繋ぎ牛舎にソーカー導入で繁殖アップ

JOURNAL 2024.04.05

小川諒平

小川諒平Ryohei Ogawa

『Dairy Japan 2023年8月号』p.21「暑熱対策で繁殖アップ」より

 暑熱ストレスに弱い乳牛には生産性を低下させないための対策が必要です。
 暑熱ストレスによる酪農経営への損害には、主たるものに乳量の減少を伴う乾物摂取量の減少、繁殖成績の悪化、熱中症やルーメンアシドーシスによる疾病の発生などがあると言う杉田智子獣医師(千葉県農業共済組合 南部家畜診療所)。以下、著者)が繋ぎ牛舎における暑熱対策と繁殖成績への影響を解説してくださいました。

 調査は2018年から2019年の夏季をソーカーシステム稼働前、2020年から2021年の夏季を同稼働後として比較したものです。

●ソーカーシステムとミストの違い

 数ある暑熱対策のなかでも、水を使用した対策は主にシーカーシステムと細霧機システム(ミスト)の二つがあると著者は説明します。
 ソーカーとは英単語の“Soak”=びしょびしょに濡らすが由来で、主にフリーストールやフリーバーンで用いられる手法で、牛の皮膚を濡らした後、牛舎内送風機により、その水を気化させることで効率的に牛体の冷却効果を得られるシステムです。
 一方ミストは、気化熱で牛体周囲の環境を冷やすものです。著者は、高湿度下では気化しなかった水滴が被毛を覆うことで水滴の膜が形成されて体熱放散を妨げて逆効果になることもあると言い、乾燥地域では有効と加えます。
 本稿では繋ぎ牛舎にソーカーシステムを導入し、繁殖成績の改善効果を見た結果です。

●月別平均最高気温と出荷乳量

 月別平均最高気温と出荷乳量の推移を比較しました(図略)。調査期間における月別平均最高気温は8月が最も高く、2020年の8月は31.9℃でした。夏季の月ごとの平均出荷乳量は、すべての月で稼働前より稼働後が上回っていました。

●繁殖成績の比較

 平均初回授精日数は稼働前99.9±30.6日から稼働後86.4±22.6日に短縮し、また平均空胎日数も、稼働前148±57.7日から稼働後128±64.4日に短縮しました。
 授精リスクは稼働前28.5%に対し稼働後41.5%と有意に増加しました。妊娠リスクは稼働前8.3%に対し稼働後10.4%と上昇し、受胎率も稼働前25.7%に対し稼働後27.8%と上昇しました。
 このほか、乳房炎の診療件数に大きな差はないものの、蹄病診療件数の減少などにより診療費が大きく減少したと著者は加えています。

 著者は今回の調査対象農場をモデルに試算すると、ソーカーシステムはミストに比べて導入費用が安価であること、繁殖成績へのプラスの効果、蹄病罹患率の減少などを総合的に判断し、費用対効果の面で有用であるとまとめています。

PROFILE/ 筆者プロフィール

小川諒平

小川諒平Ryohei Ogawa

DairyJapan編集部。
1994年生まれ、千葉県出身で大学まで陸上競技(走り高跳び)に励む。
趣味はサッカー観戦。
取材先で刺激を受けながら日々奮闘中。
皆さんに有益な情報を届けるために全国各地にうかがいます。

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