『Dairy Japan』2024年2月号 p.34 ルポ1より
繁殖成績の改善にはさまざま目標値が存在しますが、皆さんは何の指標を目標に設定しているでしょうか。また、その目標を、一緒に働く仲間とどの程度共有しているでしょうか。当ルポで取材にうかがった株式会社とかち柏葉牧場では、社長、スタッフ、協力者が同じ目標を持ち、常に共有しながら改善に取り組んでいました。
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目標は平均空胎日数120日以下
かつて繁殖成績に課題を抱えていた株式会社とかち柏葉牧場。代表の柏葉聡さんは成績改善を決意し、株式会社BRASTの牧野康太郎獣医師と、タイセイ飼料株式会社の境田俊介氏と連携し、取り組みました。当時150日前後であった平均空胎日数を、120日にするという目標を立て、改善を進めました。
最初の課題は過肥牛が多いことと生殖器の炎症(子宮炎)が目立っていたことでした。
一朝一夕には改善しないのが繁殖成績
乾乳期の栄養摂取が不十分だった柏葉牧場。問題はエサの設計よりも飼槽壁の構造などの環境要因でエサが十分に食べられないことでした。すぐにできることは、エサ押し回数を増やすというもの。日々の業務をこなすのでいっぱいな状況に、ルーティンを一つ加え習慣化させることは大変だったと柏葉さんは言います。ほかにも細かい作業が増えたにも関わらず、繁殖成績はすぐには改善するものではありません。最初は苦しい期間だったと打ち明けてくれました。
それでも柏葉さんが途中で諦めずに続けられたのは「スタッフやBRASTさん、タイセイ飼料さんが同じ目標を持って、皆真剣に向き合ってくれていたから」と、アドバイスを素直に受け取り実践してきました。細かな改善の結果、やがて柏葉牧場の平均空胎日数は120日を切るようになりました。
子宮炎の発生/治癒具合で授精を判断する
柏葉牧場の繁殖検診では、牧野獣医師が授精の可否を決めていました。その決め手は「子宮炎が治っているかどうか」だそう。繁殖検診時、直検のほかに子宮粘液の状態を必ず確認し、状態が良ければ授精OKとなります。平均すると分娩後80日程度は回復に専念するようです。
また子宮炎のコントロールのため、栄養マネジメントを徹底していました。分娩後スムーズに立ち上がれるように過肥にさせない乾乳管理、フレッシュ期は経産牛/初産牛に分けてエサを調製する、などが実践されていました。取材当時の繁殖成績を見ると、平均空胎日数は119日で、さらに、長期不受胎牛が5頭のみ(経産牛141頭)でした。群全体のばらつきが少なく安定しているということになります。
従業員との良好な関係がパフォーマンス向上に
柏葉牧場の繁殖成績改善にもう一つ、欠かせない重要なポイントがありました。それは「従業員との連携」です。取材当時3名の従業員を雇用していましたが、互いにコミュニケーションを欠かさず常に情報共有できる関係を築き、各々が責任を持ってそれぞれの部門を担当しているそう。その主体性を引き出すために柏葉さんは、自身も従業員も含めて農場外に勉強しに行く機会を積極的に設けていました。酪農技術分野だけでなくビジネスや経営などにも触れることで、社会人としてレベルアップするための取り組みを行なっていました。
柏葉さんは「結果として、農場内の意思決定スピードが上がり、全体のパフォーマンスが上がった」と、農場の改善は単に牛に関する改善だけではないことを教えてくれました。
[番外編]“コスパ”の良かった投資
・エサ押しロボットの導入は、喰い込みの増と乾物摂取量の増につながり、牛の状態がかなり安定したそうです。
・さらにエサの喰い込みに好影響を及ぼしたのはリール式のミキサーでした。TMRを細かくし過ぎずにちょうど良く混ぜてくれると好評でした。
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PROFILE/ 筆者プロフィール
前田 真之介Shinnosuke Maeda
Dairy Japan編集部・北海道駐在。北海道内の魅力的な人・場所・牛・取り組みを求めて取材し、皆さんが前向きになれる情報共有をするべく活動しています。
取材の道中に美味しいアイスと絶景を探すのが好きです。
趣味はものづくりと外遊び。