
北海道阿寒郡鶴居村にある植田牧場。冬には-20℃以下にもなる厳しい寒冷地で酪農を営む同牧場では、長年にわたり牛舎の換気問題に取り組んできました。換気を良くすれば空気の質は向上しますが、同時に牛舎内が冷えすぎてしまうリスクもあります。この「換気と防寒のバランス」が寒冷地酪農における大きな課題なのです。
換気が良すぎて糞尿が凍る
2004年、植田牧場ではフリーストール牛舎とミルキングパーラーを稼働。植田さんの過去の経験から、当時より換気の重要性を認識し、通年で良好な空気環境を維持することを目指しました。牛舎設計当時も凍結のリスクは視野に入れ、糞尿の流れるピットを地下深くに設置するなど工夫を凝らしました。しかし実際に冬になると、そもそも通路から掻き出す糞尿がシャーベット状に凍結し、排泄物処理が難航。
なかなかスラリーストアまでスムーズに流れず苦労したと植田さんは言います。その対策としては、パーラーでの排水を一時的にせき止め、一気に流すことで凍った糞尿も一緒に流すという対策で切り抜けました。
失敗を活かした新牛舎も……
2021年、植田牧場では搾乳ロボット牛舎を稼働させました。過去の教訓を活かし、試行錯誤の末に理想的な換気システムを導入しました。換気と防寒を両立させるために、最新の技術を駆使したハイブリッド換気システムです。
・天井にはチムニーファン16台を設置し、空気の流れを効率的にコントロール
・側面の巻き上げカーテンで外気を調整し、冷え過ぎを防ぐ
・温度センサーと自動制御システムにより、気温に応じた換気を実施
・牛舎基礎と屋根には断熱材を施工し、保温性を向上
しかし新システムの導入後も、ロボット室の結露による配線トラブルや凍結によるロボットシステムのトラブルといった問題が発生。
そこで、フィンランドの酪農コンサルティング会社である「4dBarn」の助言を受け、ファンの開閉制御を調整することで、最適な換気バランスを確立しました。
「牛舎稼働3年目にしてようやく理想の形にたどり着いた」と植田さんは語ります。
換気システム以外のレイアウトも工夫
植田牧場では換気だけでなく、牛舎のレイアウトにも寒冷対策の工夫が見られます。飼槽や給飼通路を壁側に配置し、冷気が搾乳ロボットやベッドに直接当たらないように設計。外気が牛の集まるエリアで温められ、自然換気が促進される構造になっています。
既存の牛舎を使用した哺育舎には陽圧換気チューブを導入し、空気の循環を最適化。こうした工夫により、冬場の換気不足による健康被害を防ぎつつ、快適な環境を維持できるようになりました。和牛子牛販売も行なう同牧場は、トップセール獲得の経験を持ち、市場では安定して高い評価を受けています。
自身も責任を持って選択をする
植田さんは、「酪農経営には専門家の知識が必要だが、それをどう自農場に活かすかは経営者の責任」と語ります。一見魅力的な情報でも過信は禁物で、さまざまな側面から冷静に見極めたうえで、経営選択をしなければならないことを強調しています。ようやく理想の飼養管理が見えてきた植田牧場では、ここからさらなる発展を目指しています。
PROFILE/ 筆者プロフィール

前田 真之介Shinnosuke Maeda
Dairy Japan編集部・北海道駐在。北海道内の魅力的な人・場所・牛・取り組みを求めて取材し、皆さんが前向きになれる情報共有をするべく活動しています。
取材の道中に美味しいアイスと絶景を探すのが好きです。
趣味はものづくりと外遊び。