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哺乳器具の正しい洗浄・保管方法|初乳の衛生管理で子牛の健康を守る

JOURNAL 2025.12.01

Dairy Japan編集部

Dairy Japan編集部Dairy Japan Editorial Department

「子牛の下痢や肺炎が減らない」原因のひとつが、哺乳器具の衛生管理です。初乳や代用乳は細菌が増えやすい特徴があります。洗浄が不十分な哺乳器具を使うと、子牛の免疫獲得や健康状態に悪影響をもたらします。今回は、十勝管内の調査をもとに哺乳器具の適切な洗浄・保管方法を紹介します。

子牛の健康を左右する初乳給与の実態

十勝管内987戸を対象に調査したところ、初乳を3リットル以上給与している農場は312戸と54%に留まる結果でした。

使用している哺乳器具の使用状況は以下になります。

  • 哺乳ボトル:約7割
  • ニップル付きバケツ:約3割

哺乳器具が定着している一方で、洗浄方法が農場ごとに異なり、衛生状態に差が生まれやすい結果がわかりました。

さらに、手洗いが主流の農場では、以下の3点が問題になるケースが多いです。

  • 汚れが落ちきらない(洗浄不足)
  • 乾燥が不十分(乾燥不足)
  • ニップルを分解せず洗っている

これらは細菌混入の原因になり、免疫獲得の妨げになるリスクがあります。

哺乳器具の衛生管理が重要な理由

初乳・常乳・代用乳は、細菌が増えるための条件「温度・栄養・水分」 が揃った液体です。とくに、初乳は蛋白質とミネラル(カルシウムなど)が多く含まれているため、常乳に比べて細菌が増えやすいことが知られています。

洗浄不足の器具で授乳すると、以下のリスクが高まります。

  • 初乳由来の病原菌が混入
  • 腸炎・肺炎の発症リスクの上昇
  • 初乳の吸収効率が下がり、免疫獲得に悪影響

器具の衛生管理は、子牛の免疫力・健康状態に関わる重要なポイントです。

哺乳器具の正しい洗浄の流れ

ここでは、哺乳器具を洗浄する際の順序を解説します。

STEP1:38~43℃のぬるま湯ですすぐ

効果:ぬるま湯は汚れを浮かせ、専用洗剤の洗浄効果を高める
最初に、器具全体を透明になるまで、ぬるま湯で十分にすすぎます。

– 熱湯はNG –
熱湯を使うと乳タンパクが凝固し、汚れが落ちにくくなります。

STEP2:専用の搾乳機器用洗剤で洗う

効果:専用洗剤は乳成分を分解しやすく、細菌の増殖を防ぐ

現場では中性洗剤やお湯のみで洗うケースが多く見られますが、蛋白質や脂肪は十分に落ちません。

下記は、お湯のみで洗浄した場合とアルカリ洗剤で洗浄した場合の細菌数・疾病率の比較です。

  お湯のみ

アルカリ洗浄→殺菌剤浸漬

菌数 2,000 4
1~30日齢疾病率 21.3% 4.6%

調査では、お湯だけで洗浄した現場は、アルカリ洗剤を使用した場合に比べて哺乳ボトル内壁の細菌数が約500倍に増加していました。

【洗浄時のポイント】

  • 洗浄温度の目安:50~55℃
  • アルカリ性の搾乳機器用洗剤を使用
  • 手荒れ防止のため、ゴム手袋を着用する

STEP3:ニップルは分解して内部まで洗う

効果:ニップル内部の細菌を除去し、衛生状態を保てる

ニップル内部は汚れが残りやすく、分解洗浄の有無で細菌数が大きく変わります。

【細菌数の比較】

  • 分解しない場合:約2,000
  • 分解して洗浄した場合:5以下

大腸菌が検出されるケースがあり、分解洗浄せず使用するのはリスクが高いと言えます。

【現場の工夫例】
ニップルを洗濯ネットに入れてミルカーと一緒に洗うことで、手間を減らし衛生状態の維持が可能です。

乾燥と保管で清潔な状態を保つ

洗浄後に水分が残っていると、細菌が増殖するため、乾燥・保管も重要です。

保管方法のNG例と良い例をまとめました。

  保管方法の特徴
〇 良い例

・ラックに立てかけて乾燥させる
・ピラミッド状積んで通気性を確保
・必要に応じて殺菌剤を使用(規定濃度)

✖ よくない例

・濡れたまま積み重ねて置く
・風通しが悪い場所に保管

乾燥不足は細菌増殖の原因になるため、水分を残さない仕組みづくりが大切です。

まとめ

今回は、哺乳器具の適切な洗浄・保管方法を紹介しました。
子牛に十分な免疫抗体をつけさせるためには、3リットル以上の初乳給与が推奨されています。また、器具をしっかりと洗浄し、保管方法にも気を付けることが重要です。

初乳の吸収は子牛の免疫力の向上に関係するため、哺乳器具の衛生管理を見直しましょう。

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