これまで、子牛や暑熱対策について多く取り組みを紹介してきましたが、私は農場での取り組みとして微生物を上手に利用した糞尿の有効活用にも力を入れています。そこから循環型酪農へとつながっていくことを目指しています。
スラリーや堆肥に関連して、今回はバイオガスについて考えてみましたので、その話をします。
私のいる地域と農協では、バイオガスを利用した街作りを計画しています。今の経営ではバイオガスは遠い存在なのですが、20年ほど前に実家の牧場勤務していた頃、規模拡大最中に検討していた時期がありました。
所有面積と糞尿の量を考えたときに、この先の散布計画が合わなくなるのではないかと思い、バイオガスという存在を知り、酪農試験場に話を聞きに行ったり視察に行ったりしました(結果として、周りで離農があり土地を購入できたので、建設には至りませんでした)。
そのときの経験を踏まえて、この機会に改めていろいろ聞いたり、学び直したので紹介したいと思います。
酪農におけるバイオガスとは?
バイオガスとは、牛の糞尿などの有機物を、酸素のない密閉されたタンク(発酵槽)に入れ、微生物の力で分解(メタン発酵)させることで発生する、メタンを主成分とした可燃性ガスのことです。このガスを燃料にして発電機を動かし、電気と熱を生み出すのが「バイオガスプラント」です。
主なメリット
- ①環境にやさしい
糞尿の強い臭いを大幅に減らし、温室効果ガスであるメタンを大気中に放出するのを防ぎます。 - ②エネルギーを生む
発電した電気は牛舎で使い、熱は給湯などに利用することで光熱費を削減できます。売電が可能で副収入にも。 - ③資源が循環する
発酵後に残った液体(消化液)は、匂いが少なく、化学肥料より吸収されやすい優れた有機肥料として牧草地や畑に還すことができます。
バイオガスに欠かせない2つの重要要素
このバイオガスプラントという「工場」を効率よく動かすためには、そこで働く「微生物」と、その原料にあたる「エネルギー(糖類)」が不可欠です。
労働者である「微生物」
バイオガスプラントは、多くの微生物達が働く生きた工場です。その仕事は役割分担されて繋がっていきます。
- 分解チーム(加水分解菌)
糞尿に含まれる大きな有機物(繊維質など)を、後続の微生物が食べやすいように細かく分解し、「エネルギー(糖類)」やアミノ酸などを作ります。 - →酸を作るチーム(酸生成菌)
分解チームが作った「エネルギー(糖類)」を主な原料にして、酢酸や水素などを作り出します。 - →生成チーム(メタン生成菌)
酸を作るチームが生み出した酢酸や水素を食べて、最終的にバイオガスの主成分である「メタンガス」を生成します。
この微生物達が最高のパフォーマンスを発揮できるよう、プラント内の温度やpHを常に最適な状態に保つ管理が非常に重要になります。
② 微生物の「エネルギー(糖類)」
「糖類」は微生物、特に「酸を作るチーム」にとって最も重要なエネルギー源(原料)です。
→牛の糞尿に含まれる炭水化物(繊維質)が、最初の「分解チーム」によって糖類に分解されることから、メタン発酵の全プロセスがスタートします。
→原料である糖類が豊富にあると、微生物達は全体の活動が活発になり、結果として最終生成物であるメタンガスの発生量も増えます。
この原理を応用し、牛の糞尿に加えて、糖類を多く含む食品廃棄物を混ぜて発酵させる「混合発酵」という技術もあります。
バイオガス技術は、単に糞尿処理ではありません。
それは、「微生物」という優秀な働き手に、「糖類」という良質なエネルギーを与えることで、糞尿から新たな価値を生み出す『資源循環型酪農』の1つだと思います。
次回は、バイオガスに必要な良いスラリーを作る話をします。




