こんにちは、ルミノロジー研究室の泉です。日本畜産学会100周年記念大会に参加してきました。会場は京都大学です。9月中旬と季節は秋ですが、気温は真夏、危険な暑さでした。私が参加した日は36℃を超える灼熱でした(汗)。
話題はメタン
私は、栄養・飼養関連の会場で聴講・発表してきました。発表テーマで興味深かったのは、ルーメン内のメタン生成抑制に関する研究がとても多かったことです。今回、メタン生成抑制に効果が期待される資材として検討されていたのは、
- 多価不飽和脂肪酸を含む脂肪酸カルシウム
- 籾殻やおが屑を用いたバイオ炭
- C12脂肪酸であるラウリン酸
- カイコやイエバエの幼虫やさなぎから抽出した油脂
- 植物性プランクトンのような微細藻類
です。バイオ炭を除くと、主として脂肪酸がメタン生成抑制に効果を発揮するというメカニズムでした。
脂肪酸カルシウムについては、牛に給与する試験が行なわれていました。そのほかの資材はルーメン液を試験管に入れて培養する室内試験で評価されていました。後者の試験はインビトロ培養試験と言い、私どもの研究室でも取り組んでいる手法になります。
学会で発表される内容ですので、どの資材も大小はあるものの、メタン抑制効果が確認されていました。一方で、生産性についてはどうでしょうか。いくつかの発表では生産性についての言及がありました。生産性が微妙に抑制されてしまう結果があったり、成果が認められたけれど収入を大きく伸ばすほどのインパクトはないといった感じでした。
メタン抑制は環境問題としてはとても重要なことですし、ウシは強力な温室効果ガスであるメタンをルーメンで生産し、ゲップとして排出するのも事実です。一方で、生産者目線としては、ウシはメタンガスを出すかもしれないが、国民に貴重な蛋白源を供給しているという自負もあります。メタンを減らすためには牛を飼わないのが 最も簡単な方法です。ですが、そうした場合、どうやって乳や肉を調達すれば良いのでしょうか。
メタン抑制効果の期待される資材をウシに与えるためには相応のコストがかかります。そのコストを生産性改善によって生産者が回収できれば良いのですが、そうでないとすると、誰が負担すべきでしょう。牛を飼っている農家でしょうか。それとも、国民でしょうか。いずれにしても、メタンを抑制するためにはコストがかかり、そのコストは畜産物の価格に上乗せされるように思います。米の価格が上がって困っているところに、メタン対策によって畜産物の価格まで高騰すると、われわれ国民の生活はますます困窮してしまいます。難しい問題だと思いながら、発表を聴いていました。
PROFILE/ 筆者プロフィール
泉 賢一Kenichi Izumi
1971年、札幌市のラーメン屋に産まれる。北大の畜産学科で草から畜産物を生産する反芻動物のロマンに魅了される。現在、農食環境学群循環農学類ルミノロジー研究室教授。2023年より酪農学園フィールド教育研究センター長。専門はルーメンを健康にする飼養管理。癒やしの時間はカミサンとの晩酌。