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水本牧場ブログ21:「3カ月までの管理、10歳まで」Part.3

JOURNAL 2025.05.15

 前回までは、まずは分娩前、乾乳期の管理の重要性、そして生まれてくる子牛を選ぶ、つまり性液選定などの授精戦略のお話をさせていただきました。

 今回は、分娩を迎えるにあたって知っておきたい、私が重要と考えることをお話しします。

分娩2カ月前からの管理

 分娩2カ月前からの母牛の管理は、健康な子牛の出産と、その後の母牛の順調な回復のために非常に重要です。栄養管理(エネルギー、蛋白質、ミネラル、ビタミン)、衛生管理、ストレス軽減、健康観察など、いろいろな観点を考えていく必要があります。

 まずは分娩1カ月前までは、母牛の分娩へ向けての管理が重要です。私は分娩1カ月前の母牛の体型は、分娩後の母牛の理想とする体型をイメージして、観察、管理しています。とくに腹作りを意識し、しっかり丸く(俗に言うリンゴ型)することを目標にしています。

分娩3週間前の牛の腹です

 分娩1カ月前から分娩までの期間で胎子や初乳に栄養が届きやすくするために、分娩1カ月前までに母牛の体調、体型を充実させることを考えています。

分娩までに考えていることとして……

1)初乳の質

 初乳は、生まれたばかりの子牛にとって非常に重要な栄養源であり、免疫を獲得するための唯一の手段です。分娩前の母牛の管理は、この初乳の質に直接影響を与えます。

<免疫グロブリン濃度>
 初乳には、母体が作り出した免疫抗体(とくにIgG)が豊富に含まれており、子牛を病原体から守ります。分娩前の適切な栄養管理やワクチン接種は、初乳中の免疫グロブリン濃度を高めることにつながります。

<そのほかの栄養成分>
 初乳には、免疫グロブリンだけでなく、成長因子、ビタミン、ミネラルなど、子牛の成長に必要な栄養素が豊富に含まれています。母牛の栄養状態が良好であれば、これらの栄養成分も豊富に含まれた質の高い初乳となります。

<細菌数>
 分娩前の衛生管理が不十分だと、初乳が細菌に汚染されるリスクが高まります。細菌数の多い初乳は、子牛の健康を害する可能性があります。

2)胎子

 分娩2カ月前は、胎子が急速に成長する時期です。

<器官形成の完了>
 重要な器官の形成はほぼ完了し、この時期からは主に体重や筋肉、骨格が発達します。

<栄養要求の増大>
 胎子の成長に伴い、母牛からの栄養要求量が増加します。母牛の栄養状態が悪いと、胎子の発育遅延や低体重につながる可能性があります。

3)代謝プログラミング

 代謝プログラミングとは、妊娠期間中の母体の栄養状態や環境が、胎子の遺伝子発現や代謝機能に長期的な影響を与える現象です。分娩前の母牛の管理は、この代謝プログラミングを通じて胎子の将来の健康に大きく関わってきます。

<適切な栄養>
 妊娠後期に十分な栄養が供給されることで、胎子は正常な発育を遂げ、出生後の成長や免疫機能が向上する可能性があります。逆に、栄養不足は低体重出生や臓器の発達遅延、免疫機能の低下などを引き起こす可能性があります。

<ストレス>
 妊娠中の母体のストレスは、胎盤を通じて胎子に伝わり、神経内分泌系や免疫系の発達に影響を与える可能性があります。初乳、胎子、代謝プログラムなどが主に考えられると思います。

 分娩前管理をサポートする物として、アミノ酸給与があります。アミノ酸は、蛋白質の構成要素であり、胎子の成長や初乳の産生に不可欠です。

<必須アミノ酸の重要性>
 牛は体内で合成できない必須アミノ酸を飼料から摂取する必要があります。とくにメチオニンやリジンなどは、成長や免疫機能に重要な役割を果たします。

<分娩前の給与の意義>

 分娩前にバランスの取れたアミノ酸を母牛に給与することで、胎子の正常な発育をサポートし、質の高い初乳の産生を促すことが期待できます。

 分娩前の胎子期は、子牛が体内で成長する期間というだけでなく、その後の生涯にわたる成長、健康、生産性を決定づける極めて重要な時期だと思います。

 母牛の栄養管理、健康管理、ストレス軽減など、適切な管理を行なうことが、良い後継牛を作ることに不可欠だと考えます。

 分娩前管理にかかるお金を、「経費」ではなく「投資」と考えると、より良い管理が実践できると思います!

https://aska-animal.co.jp/products/detail/mix/bst-u.html

PROFILE/ 筆者プロフィール

水本 康洋

水本 康洋

1983年、別海町の酪農家生まれ。
北海道立農業大学校卒で、帯広市の酪農ヘルパーを経て、実家に就農。
その後、実家を離れ、浜中町にて研修後、2016年4月に新規就農し、現在に至る。

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