酪農技術情報

牛は人と信頼関係を築きたい生き物だ

JOURNAL 2024.09.17

小川諒平

小川諒平Ryohei Ogawa

『Dairy Japan 2023年11月号』p.60 連載「あなたは乳牛をどこまで知っていますか?–ファイル32」(著者=田中義春氏、デーリィサポート・タナカ、元・北海道専門技術員)より抜粋・要約。

時の流れで関係が重要になった

 牛との信頼関係があれば、移動・搾乳・授精や治療などを施すとき、短時間で処理して作業を早く終えることができる。信頼関係が浅ければ、人と牛の双方に無駄な動きと動揺を与え余計な負担がかかる。
 ここ数年、外国人実習生や経験不足の労働力が増えており、個別の技術に対する知識が不足し、経営者が意図することを理解できていない。牧場の経営目標を達成するためには、作業工程のマニュアル化だけでなく、牛とのコミュニケーションをとることも求められている。

草の上にいる牛

低い精度で自動的に生成された説明

関係構築はあらゆる面でプラスだ

 管理者が穏やかな牧場は牛も穏やかになるという傾向があり、乳量にも反映する。
 牛が最初に経験する分娩時・移動時・捕縛時・搾乳時など不安を感じるとき—-人の指示を仰ぐときがチャンスだ。牛自身も管理者と信頼関係を築きたい生き物なのである。
 牛を蹴らない・叩かない・怒らない・急がせない・大声を出さない—-人と牛との良好な関係を日頃から維持すべきだ。

幼齢期の接触は成牛まで維持される

 哺乳などの幼齢期にいかに触れ合うか、人は敵ではなくフレンドリーであるといかに思わせるかである。人の都合で、成牛になってから慌てて信頼を築こうとしても容易なことではない。
 人の場合は子どもの頭を撫でるが、牛の場合は仲間が舐め合う部位である「首」を撫でるべきだ。

囲い地にいる牛

中程度の精度で自動的に生成された説明

恐怖はいつまでも記憶に残っている

 牛は臆病で警戒心が強く、過去の恐ろしさを覚えており、嫌なことや苦痛を伴う行動を学習する。恐怖を感じた記憶は生涯残り、敵と感じたものに対して自分の身を守るため激しく抵抗する。
 牛は快適なほうへ自ら進んで行くのが本来の姿で、嫌なところへ追って誘導するのは最小限にすべきだ。授精や治療などで牛に移動を促す際、強制的に追えば一時的に時間を節約することができる。しかし、以後は作業に時間がかかり、労働効率を悪くし、牛はストレスを増幅して免疫機能を低下させる。
 牛のハンドリングを上手くすることで、管理者はストレスを軽減し労働時間を大幅に削減できる。

屋内, コンピュータ, ノートパソコン, テーブル が含まれている画像

自動的に生成された説明

異常牛を発見できる人の目も改良する

 育種改良が進み、気性の荒い牛は淘汰され、従順で温厚な牛が残ってきた。乳量が出る・おとなしい・扱いやすいということは、人にとっては逆にモニタリングが難しくなる。
 IT化で牛体の情報をより多く取得することが可能になったが、わずかな変化を見抜けるかだ。発情や体調の悪い牛を見つけるためには、人の目も改良する必要があるようだ。

PROFILE/ 筆者プロフィール

小川諒平

小川諒平Ryohei Ogawa

DairyJapan編集部。
1994年生まれ、千葉県出身で大学まで陸上競技(走り高跳び)に励む。
趣味はサッカー観戦。
取材先で刺激を受けながら日々奮闘中。
皆さんに有益な情報を届けるために全国各地にうかがいます。

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