酪農技術情報

違いに気づけるアンテナを

JOURNAL 2024.05.17

小川諒平

小川諒平Ryohei Ogawa

『Dairy Japan2024年2月号』p.38「ルポ2」より

朝霧高原で経産牛110頭を飼養する富士丸西牧場(静岡県富士宮市)。「繁殖成績に悩むことは少ない」と話すのは代表の佐々木さん。繁殖のばらつきをなくすためのポイントは「牛や管理、どの場面においても“普段との違い”に気づくこと」だと言います。

●発情を見逃さない工夫

 佐々木さんは「牛が健康に歩くことが発情発見のカギ」だと言います。放牧を取り入れたことで舎飼いの牛よりも足腰がしっかりしており、発情の徴候を見逃しにくい状況が整っています。また、削蹄により牛の健康な歩行をサポートしています。タイミングは牛のステージに合わせて調整され、乾乳に入る際に1回、それ以降は1回目の削蹄から4カ月ごとという設定です。このような管理により、牛達は常に元気に歩くことができ、発情の徴候を見逃すことが少なくなっています。

●産後のBCSを落とさない工夫

 産後のボディコンディション・スコア(BCS)の落ち幅が少ない同牧場は、多くの牛がスムーズに受胎できています。BSCで意識していることは「牛の観察とエサを十分に食べてもらうこと」だと佐々木さんは述べます
 同牧場では従業員が1時間に1回、エサ押しと除糞をローテーションで行ないます。それにより牛舎には常に誰かがいる状態になり、常に牛群を観察する体制が構築されています。
 さらに佐々木さんは「食べてもらえるエサと、エサを食べられる環境を提供することが大切」と明かします。1群管理で1回給飼の同牧場では、一度にすべてのエサを押すのではなく、1時間で食べたぶんだけを押しています。乾乳牛の乾燥TMRは、エサを食べる際に比重の違いで配合飼料と乾草が分離してしまうことを考慮し、さらに綿密なエサ押しをしています。これにより、ヨダレの付いていない新鮮なエサを食べられる状態を保っています。
 これらの取り組みを20年以上も続けており、移行期に体調を壊さないことや産後のBSCが落ちないことにつながっています。

●TMRを考える

 エサ作りは季節や天候に加え、放牧地での青草の採食量を考慮して毎朝のミーティングでTMR調製を確認します。前日の牛の様子や残飼の量などを話し合い、TMRの配合割合を変えて、牛の状態に合ったエサを調製しています。

 また、産褥牛は分娩後2〜3日、分娩室と搾乳牛舎を行き来させ、乾乳TMRと搾乳TMRどちらのエサを食べるのかを観察します。産後も乾乳TMRを好んで食べる場合は調子が悪く、搾乳TMRを好んで食べる場合は調子が良いと判断します。立ち上がり段階で搾乳TMRばかりを食べていても、体調を崩す可能性があるため、すぐに搾乳牛舎に戻すのではなく2〜3日様子を見てから搾乳牛舎へ戻します。
 こうした取り組みで牛の体調を崩さずに、スムーズに次回の分娩に向けた体を作っています。

●さらなる安定を求めて

 今後は自給飼料の確保を失敗しないことが重要だと言います。1〜4番草まで同じ品質ではないため、同じエサとして扱うと栄養面などバランスが崩れ、繁殖にも影響します。そのため牧草を組み合わせたときに、牛に気づかれないようなエサを作らなければいけません。「組み合わせ方法を吟味し、日々の栄養のばらつきをなくしていくことが、さらなる繁殖の安定につながる」と語ってくれました。

 日々の作業のなかで牛の異変や変化をよく観察することが当たり前になっている同牧場での取材をとおして、牛へ快適な環境を提供し愛情を持って管理するというポリシーが伝わってきました。

PROFILE/ 筆者プロフィール

小川諒平

小川諒平Ryohei Ogawa

DairyJapan編集部。
1994年生まれ、千葉県出身で大学まで陸上競技(走り高跳び)に励む。
趣味はサッカー観戦。
取材先で刺激を受けながら日々奮闘中。
皆さんに有益な情報を届けるために全国各地にうかがいます。

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