酪農役立ちコラム

A2ミルク開拓記第3話:「A2ミルクを届けるには、まず牛群を知ることから」

JOURNAL 2026.09.03

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A2ミルク開拓記第2話:「牛乳を飲みたい人に、もう一つの選択肢を」

消費者の信頼に応えるための遺伝子検査

前回は、A2ミルクは普通の牛乳を否定するものではなく、牛乳を飲みたい人にとってのもう一つの選択肢ではないか、という話を書きました。

ただ、A2ミルクに興味を持ったからといって、すぐに「これは売れる」と考えたわけではありません。

酪農家として最初に考えたのは、もっと現場に近いことでした。

それは、「うちの牛群で、本当にA2ミルクとして届けられるのか」ということです。

A2ミルクという言葉だけを見ると、新しい商品名や販売方法のように感じるかもしれません。けれども、生産者の立場で考えると、まず売り方ではなく、牛群の話になります。

自分の牧場にA2A2の牛がどれくらいいるのか。その牛たちから搾った生乳を安定して集められるのか。そして、それをA2ミルクとして消費者に説明できるのか。

ここを考えずに、名前だけが先に出てしまうのは、酪農家として違うと思いました。

「A2です」と言う前に

A2ミルクを販売するということは、単に新しい牛乳を売ることではありません。

その牛乳を選んでくれる消費者に対して、「なぜA2ミルクと言えるのか」を説明できる必要があります。

これは、普通の牛乳を否定するためではありません。私自身、今も通常の牛乳を生産しています。日本の酪農家が毎日搾っている牛乳は、厳しい衛生管理と品質管理の中で届けられている大切な食品です。

そのうえで、A2ミルクとして販売するなら、それを選ぶ消費者の信頼に応える責任があります。

お腹のことが気になる方。牛乳を飲みたいけれど、少し不安を感じている方。家族のために選びたい方。

そういう方がA2ミルクを手に取るとき、そこには期待があります。だからこそ、売る側があいまいではいけません。

「たぶんA2です」。「おそらく混ざっていません」。「そういう牛乳だと思います」。

これでは、長く続く取り組みにはなりません。

A2ミルクは、期待されやすい牛乳です。だからこそ、言い過ぎないこと、確認すること、説明できることが大事になります。

A2ミルクは、牛群から作る牛乳

A2ミルクは、普通の牛乳にあとから何かを加えて作るものではありません。乳糖を抜いた牛乳でもありません。

関係しているのは、牛がもともと持っているβカゼインの遺伝子型です。A1型とA2型の違いは、βカゼインの一部のアミノ酸の違いとして整理されています。

つまり、A2ミルクは工場だけで作る牛乳ではありません。牛群から作る牛乳だと考えた方が分かりやすいと思います。

ここが、普通の商品開発とは大きく違うところです。

パッケージを変えたり、ネーミングをしたらよいわけでもありません。まず、牛を調べなければなりません。もっと正確に言えば、牛の遺伝子型を確認しなければなりません。

A2ミルクとして安定して届けるには、たまたまA2A2の牛が何頭かいるだけでは足りません。ある程度まとまった牛群として、A2ミルクを生産できる状態をつくっていく必要があります。

その第一歩が、今いる牛群を知ることです。

見た目では分からないから、検査が必要になる

牛を見ただけでは、A2A2かどうかは分かりません。

乳量の高い牛。体型の良い牛。長く牧場を支えてくれた牛。

そういう牛であっても、βカゼインの型は見た目では分かりません。血統からある程度予測できる場合はあっても、最後は調べてみなければ分かりません。

だから、A2ミルクに取り組むなら、まず遺伝子検査が必要だと思いました。

検査というと、何かを疑うためのもののように聞こえるかもしれません。けれども私は、検査は信頼をつくるためのものだと思っています。

消費者に対して、取引先に対して、そして自分たち自身に対して、説明できる状態をつくるためです。

A2ミルクとして届けるなら、「調べて確認しています」と言えることが大切です。

これは、A2ミルクに限らず、これからの酪農にとって大事な姿勢だと思います。

私たち酪農家は、毎日牛を見ています。食い込み、反芻、乳量、乳成分、体細胞、繁殖、分娩、疾病。現場では、いろいろな情報を見ながら判断しています。

ただ、見ただけでは分からないものもあります。分からないものは、調べる。調べた結果をもとに、次の手を考える。

A2ミルクも同じです。

検査は、牛群づくりの出発点

遺伝子検査をすると、今の牛群の中身が見えてきます。

A2A2の牛がどれくらいいるのか。A1A2の牛がどれくらいいるのか。A1A1の牛がどれくらいいるのか。

そこが分かって、初めて次の話に進めます。

ただし、検査はゴールではありません。むしろ出発点です。

仮にA2A2の牛が何頭かいたとしても、それだけでA2ミルクを安定して届けられるわけではありません。まとまった量を継続して出荷するには、これからの牛群をどう作っていくかを考える必要があります。

牛群づくりには時間がかかります。

交配して、子牛が生まれ、育成して、初産を迎えるまでには何年もかかります。今日思いついて、明日からすぐにまとまったA2ミルクが出せるわけではありません。

だから私は、A2ミルクを「流行りそうな商品」としてではなく、長い時間をかけて取り組む牛群づくりの話だと考えるようになりました。

もちろん、A2A2だけを追えばよいわけではありません。

酪農経営では、乳量、乳成分、繁殖性、肢蹄、乳房、体細胞、病気への強さ、長命性など、見なければならないことがたくさんあります。A2A2の牛を増やしたいからといって、牛群全体の能力を落としてしまっては意味がありません。

A2ミルクに取り組むとしても、それは牛群改良の一部として考えるべきものです。

ここは、生産者だけでなく、獣医師、飼料設計者、繁殖に関わる方々、乳業関係者とも一緒に考える必要があるところだと思います。

現場から信頼を積み上げる

消費者に信頼されるA2ミルクを届けるには、言葉だけでは足りません。

牛を調べる。牛群の中身を知る。A2A2の牛をどう増やしていくか考える。そして、普通の牛乳を否定するのではなく、牛乳の新しい選択肢として、きちんと説明できる形にしていく。

その積み重ねが必要です。

JミルクのA2ミルクに関するファクトブックでも、A2ミルクについては「いま、わかっていること」と「まだわかっていないこと」を整理しながら考える必要があるとされています。期待のある分野だからこそ、確認できることを積み上げていく姿勢が大切だと思います。

私がA2ミルクを、思いつきではなく、検査と牛群づくりの話だと思った理由はここにあります。

A2ミルクを販売するなら、消費者の信頼に応えなければなりません。その信頼は、言葉だけではつくれません。

牛を調べ、牛群をつくり、確認しながら届ける。

A2ミルクは、酪農家が現場から信頼を積み上げていく牛乳だと思っています。

次回は、実際に牛群を調べることで何が見えてくるのか、現場のデータをもとにお話ししたいと思います。

参考資料・出典

1. 一般社団法人Jミルク「ファクトブック A2ミルク ”いま、わかっていること、まだわかっていないこと”」。A2ミルクに関する論文情報をもとに、現時点で整理できる知見と課題をまとめた資料。

2. Giribaldi M, Lamberti C, Cirrincione S, Giuffrida MG, Cavallarin L. “A2 Milk and BCM-7 Peptide as Emerging Parameters of Milk Quality.” Frontiers in Nutrition. 2022;9:842375. A1・A2βカゼイン、BCM-7、A2ミルクの基礎を整理したレビュー論文。

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PROFILE/ 筆者プロフィール

藤井雄一郎

藤井雄一郎

北海道富良野市で約2300頭を飼養する有限会社藤井牧場代表取締役。120年以上続く酪農家の5代目。日本A2ミルク協会代表理事として、A2ミルクの普及と認証制度づくりに取り組む。

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