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泉先生のルミノブログ21:群分けをするメリット

JOURNAL 2025.07.09

泉 賢一

泉 賢一Kenichi Izumi

こんにちは、日大の泉です。

関東のヒートストレス、恐るべし!

原稿執筆時は6月中旬ですが、梅雨の合間に34℃超えを経験しています。高温多湿のため、大学農場でも熱中症で体調不良となった牛が発生してしまいました。殺人的な猛暑が続いたと思ったら、梅雨空に逆戻りして湿度80%越えとなります。わが家でも急遽、除湿機とサーキュレーターを購入して、洗濯物に乾燥した空気を当てたり、エアコンの冷気を循環させています。

ちなみに、除湿機はたまたま飲み屋でお隣に座った紳士から教えていただきました。何かと時代遅れと言われがちな飲みュニケーションですが、酒場で仕入れられる情報も少なくありません。

さて、今日は、フリーストールの群分けについて興味深い文献を読みましたので、皆さんにご紹介します。

米国ウィスコンシン大学のチームが開発した、群分けのメリットを数値化するというものです。Grouping Strategies for Feeding Lactating Dairy Cattle (Cabreraら2012)

https://www.researchgate.net/publication/290489430_Grouping_Strategies_for_Feeding_Lactating_Dairy_Cattle

このレポートでは、群分けを科学的に検証するために、牛の情報(産次、乳量、体重、分娩後日数、乳脂率)、トウモロコシと大豆粕の栄養成分とその単価、乳価、群分けすることによって得られる飼料費の節約と、逆に増えてしまう労働コスト、群の移動に伴う乳量減少、これらの情報を牧場ごとに整理するところからスタートします。 
 そこから得た値を以下の数式に盛り込んで、一群管理と群分けした場合について金額ベースで比較評価します。


群分けメリット=(乳代収入-飼料費)+飼料コスト節約効果-群分けによる管理コスト-群の移動に伴う乳量減少ロス

研究チームでは、この式を用いて実際の三つの酪農場で計算してみたところ、群分けなしの一群管理よりも、三つのグループに分割する群分け管理のほうが年間メリット(利益)は大きくなることを確認しました。

 また、群分けのメリットは頭数規模が大きくなるほど効果(利益)も大きくなりました。

この計算式は、在籍牛1頭ごとに「乳代収入-飼料費」(IOFC)を計算しなければいけないなど、とても複雑な条件整備が必要になります。そのため、HP上には計算支援プログラムも紹介されていますが、こちらも使いこなすのは難しそうです。

https://dairymgt.cals.wisc.edu/tools/grouping_strategy/index.php

視点を変えますと、群分けのメリットを金額ベースで表そうとすると、これほどまでに数多くの要因を加えた複雑な計算式が必要だということを、このプログラムは表しています。

酪農で利益をもたらすのは、このように大変だということです。身近な例では、生乳販売とはかけ離れた土作りから始めて、何年も経ってようやく牧場の生産性が上向き、ようやく経営も安定してきた、なんてことは珍しくありません。生産者自身、今の儲けが、実は数年前から取り組んでいる土作りによってもたらされているなんて実感できません。

酪農の儲けは各駅停車で、急行や特急はほとんど存在しないのだと、私は思っています(今の時代、黒毛受精卵産子とかゲノムによる改良とかありますが・・・)。

フリーストール牛舎で群分けすることは経営者側からすると面倒ですが、一手間かけることで、そのコスト以上の利益をもたらしてくれるようです。

PROFILE/ 筆者プロフィール

泉 賢一

泉 賢一Kenichi Izumi

1971年、札幌市のラーメン屋に産まれる。1浪の末、北大に入学。畜産学科で草から畜産物を生産する反芻動物のロマンに魅了される。修士修了後、十勝の酪農家で1年間実習し、酪農学園大学附属農場助手として採用される。ルミノロジー研究室の指導教員として学生教育と研究に取り組むかたわらで、酪農大牛群の栄養管理に携わる。2025年4月、27年間努めた酪農大を退職し、日本大学生物資源科学部に転職する。現在はアグリサイエンス学科畜産学研究室の教授。専門はルーメンを健康にする飼養管理。最近ハマっていることは料理と美しい弁当を作ること。

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