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ルミノブログ16:ルーメン絨毛とSARA

JOURNAL 2025.02.26

泉 賢一

泉 賢一Kenichi Izumi

 こんにちは。最近、私はルーメン絨毛に興味があります。

 今年は、卒論研究でルーメン絨毛の顕微鏡観察を行ないました。私の同期で顕微鏡観察を得意とする同僚がいますので、彼の元に卒論担当学生と共に通って指導を受けました。

 肥育牛の出荷時に採取したルーメン絨毛を、さまざまな処理を経て顕微鏡観察用の試料に仕上げていきます。その試料を観察してルーメン絨毛組織の構造を評価しました。

ルーメン絨毛の役割は?

 ルーメン絨毛の第一の役割は、ルーメン発酵で生成された栄養素の吸収ですが、それと同時に病原体に対するバリア機能も有しています。ルーメン絨毛がひび割れのような状態になってしまうと、その傷口から病原体が侵入してしまい、さまざまな障害の原因になってしまいます。

 絨毛の表面がダメージを受ける最大の要因はアシドーシス(SARA)だと考えられています。人の肌もそうですが、酸やアルカリといった洗剤や薬液にさらされると荒れちゃいますよね。ルーメン絨毛も酸にさらされ続けると荒れてしまうというわけです。

 今年の卒論研究では、ある処理を加えた牛とそうでない牛において、絨毛に何らかの違いが生じるかどうかを観察しました。

 その結果、一定の傾向の違いは確認されました。研究途中なので詳しくはご紹介できませんが、エサにある処理を加えることによって絨毛の組織構造を強化できる可能性が出てきました。具体的には、栄養学処理によって絨毛の上皮組織の厚みが増すかもしれないということです。ルーメン絨毛組織の厚みが増すと、栄養素の吸収が良くなり生産効率は上がることが期待できますし、病原体の侵入も防げます。

 ルーメン絨毛一つ一つは小さく、数十mmくらいしかありません。小さなルーメン絨毛ではありますが、牛の生産性と健康のカギを握っていると言っても過言ではないのです。「健康な牛には、丈夫なルーメン絨毛あり!」と言えます。

 私達は何年か前にも同様の観察をしたことがありますが、そのときは画像解析にとても手間取ったことを覚えています。ですが、今回はデバイスやソフトウェアが進化しており、画像の扱いや解析が各段にやりやすくなっていました。データ解析システムが最新の状態だと研究の質が上がることを体感できました。良い研究成果を出すためには、研究デバイスへの投資が必要で、そのためには研究予算の獲得が大切だというわけです。異分野の研究チームと仕事をして、私も学生もさまざまな刺激を受けました。

PROFILE/ 筆者プロフィール

泉 賢一

泉 賢一Kenichi Izumi

1971年、札幌市のラーメン屋に産まれる。北大の畜産学科で草から畜産物を生産する反芻動物のロマンに魅了される。現在、農食環境学群循環農学類ルミノロジー研究室教授。2023年より酪農学園フィールド教育研究センター長。専門はルーメンを健康にする飼養管理。癒やしの時間はカミサンとの晩酌。

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