酪農技術情報

余裕ある条件が雇用につながる

JOURNAL 2024.10.01

●外国人労力について考える

 「雇用を取り入れたのは22年前。外国人実習生を受け入れたことがスタート」と自らの経験を振り返る森末さん。現在では雇用の約半数が外国人実習生。そして特定技能実習生は5人で労働力の多くを外国人が支えています。すると鳥渕さんは、「最近、異業種の方と雇用について話す機会があって、『外国人を受け入れないのは閉鎖的だ』と指摘されました。SDGs的にも雇用のグローバル化をしたほうが良いというのがその真意のようです」と意外な発言をしました。
 鳥渕さんは日本人の従業員をなんとか定着させ、雇用と経営を安定させようと努力してきたという。それが覆させた形です。
 一方で森末さんは、「以前は外国人実習生の賃金は安かったが、今は逆転。日本人のほうが安いくらい」と情勢の変化を話します。

●獣医師不足には自社雇用も

 もう一つ、酪農を取り巻く環境で大きく変化したことが獣医師不足だと両氏。「獣医師を目指す若者のうち、産業動物を志す人が本当に減った」と森末さんは言い、このままでは地域の酪農に獣医療が追いつかなくなると危機感を募らせます。動物用医薬品などに関するポジティブリスト制度も、今後ますます厳しくなることが考えられることも合わせて考えると、「獣医師を直接雇用することも現実的だ」と鳥渕さんと声を揃えます。

●休日取得が第一に

 従業員募集で一番重視している項目を聞くと「休日の取得」と森末さん。「突然の休日取得にも対応できるように、人員は余裕を持って対応する」と言います。また今年から日本人社員と特定技能実習生は完全週休2日制をとれるよう、人員の増強を図っているとも加えます。

 「住居の確保」も募集の際に重要になると両氏。森末さんは近隣の空き不動産を購入して整理して社宅に。いわゆるシェアハウス方式も取り入れています。「外国人も最近は、個室・エアコン完備が雇用される際の条件になっている」と森末さんは話し、その条件整備に力を入れています。鳥渕さんは「農場近くのマンションを借り上げ、社宅として運用しています。うちの牧場は女性従業員が多く、従業員同士でコミュニケーションを取りたいという要望があるため、それを実現するのも牧場の役目だと考えています」と住居以外にも取り組む課題があると加えます

●手取りを変えずに労働時間を減らす

 最後に雇用のテーマについて森末さんに聞くと、「労働力の余裕を持つことと、労働力を削減すること」だと言います。日本人と特定技能実習生の完全週休2日制と、シフトの自由度の向上、有給取得率の向上を実現するには、一人ひとりの労働力を短縮して、時間当たりの賃金を上げることだと断言し、「目指すは手取り収入を変えずに労働時間を短くすること」を目標に、生産性を改善することこそそのための道だと教えてくれた。

PROFILE/ 筆者プロフィール

Dairy Japan編集部・都内在住。
取材ではいつも「へぇ!」と驚かされることばかり。
業界に入って二十数年。普遍的技術、最新の技術、知恵と工夫、さまざまな側面があるから酪農は楽しい!

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