酪農技術情報

サポートを通じた第三者継承

JOURNAL 2024.09.10

小川諒平

小川諒平Ryohei Ogawa

『Dairy Japan』2024年6月号p.42「ルポ2」より

神奈川県で初となる、第三者経営継承で2021年に新規就農したリトルリバーファーム代表の小川翔吾さん。神奈川県畜産技術センターが小川さんの就農をサポートし、晴れて牧場主となるまでの道のりを取材しました。

同じ夢を追いかける

 非農家出身ながら牛への愛情が募り、“酪農家になる”という夢を抱いたリトルリバーファーム代表の小川翔吾さん(36歳)。以前ほかの牧場で働いていた際に、「地元で自分の農場を持つ」という同じ夢を抱く酪農ヘルパーとの出会いが「新規就農」への一歩を踏み出すきっかけとなったと言います。

 第一歩として小川さんは、当時従事していた牧場に来ていた飼料会社などに新規就農の相談や情報収集をしました。同時に神奈川県畜産技術センターにも就農の相談を持ちかけていました。

 そのとき、「秦野市の酪農家が離農のため後継者を探している」という話が同センターに寄せられ、就農を目指す小川さんと引退する酪農家双方の思いとタイミングが合致し、第三者経営継承に向けて条件を調整しました。

手厚いサポート体制

 移譲者からの強い要望で約1年間という限られた準備期間で経営継承をすることとなりましたが、廃業計画・資産評価・経営計画・資金計画など、さまざまな課題がありました。

 早急な課題解決のために同センターは、移譲者、継承者、さらには金融公庫や市役所などの関係機関による「秦野市事業継承会議」を設置。そこでは関係者全員が情報共有し、限られた期間で遂行させるために継承日から逆算し、綿密なスケジュール調整を行ないました。

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 準備で最も困難だったことを、継承までをサポートした同センターの仲澤慶紀さんは「小川さんが思い描く経営像と与えられた資産(牛・牛舎・機械)で経営することのギャップを埋めることだった」と言います。これを克服するために、打ち合わせや数えきれないメールのやり取りが行なわれ、理想と現実のギャップを埋めていきました。

 また、現場での技量も重要視され、2020年9月から6カ月の併走期間を設け、移譲者のもとで研修を行ないました。「大切なことは従業員としてではなく、将来経営者として営農していくための研修ということだ」と仲澤さんはこの期間の重要性を強調します。小川さんは繁殖台帳や減価償却台帳などの作成に取り組み、経営者として必要な技術や知識を身につけていきました。

 そして経営継承期限の2021年3月には、ほぼすべての作業を小川さん一人でこなせるまでになりました。

就農後の試練

 2021年4月から晴れて独り立ちした小川さんでしたが、継承早々にバーンクリーナーが壊れてしまうトラブルに見舞われました。就農したばかりでメーカー登録が済んでおらず、納品までの約20日間、手掻きでの除糞を余儀なくされましたが、その間、仲澤さんや地域の仲間が手伝ってくれたことで苦難を乗り越えたそうです。

 「研修期間の6カ月で牛のクセは理解していたが、機械はユーザーのクセがあり、使い慣れていなかった」と小川さん。この経験から、「半年から1年は就農予定先で働き、牛の性格や機械など牧場に足りない部分を考える時間を作ることが必要」と小川さんは言います。

新たな新規就農者を

 同牧場は農業高校の実習の受け入れも行なっており、「新規就農を目指す学生の相談窓口でありたい」と新規就農者が増えることに期待を込めた様子で話します。

 仲澤さんは「継承者と移譲者のケースがさまざまであることを念頭に置きながら、初心を忘れずゼロベースで対応していきたい。そして小川さんに続く、第二の経営継承者が生まれるよう情報収集と共有を進めていきたい」と今後の目標を語ります。さらに「彼らをサポートした経験から得た知識も多いことから次回はよりスムーズなサポートができる」と自信を覗かせました。

PROFILE/ 筆者プロフィール

小川諒平

小川諒平Ryohei Ogawa

DairyJapan編集部。
1994年生まれ、千葉県出身で大学まで陸上競技(走り高跳び)に励む。
趣味はサッカー観戦。
取材先で刺激を受けながら日々奮闘中。
皆さんに有益な情報を届けるために全国各地にうかがいます。

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