前から気になっていたのですが、今回改めて生菌剤投与の考え方について整理してみました。生菌剤はご存知のとおり乳酸菌や酪酸菌、枯草菌などさまざまな菌が単独あるいは複数含まれた飼料添加剤で、プロバイオティクスとも呼ばれます。一口に乳酸菌といっても、その菌株には多くの種類があり、市販されている生菌剤にもさまざまなラインナップがあります。
現場では、この生菌剤を給与するときの選択基準が曖昧なように感じられます。どの菌を含む生菌剤を使えば良いのか? 給与量はどれくらいか? 価格についてはどう考えれば良いのか? 聞く人によってさまざまな答えが返ってきますが、科学的根拠まで噛み砕いて説明してくれる方は少ないです。
菌の種類よりも菌数が大事
アメリカの酪農科学学会誌Journal of Dairy Scienceをいくつか調べてみると、効果を発揮するのは菌株(菌の種類)もさることながら、飼料に添加する菌数が大事だということが読み取れました。
例えば、子牛にサルモネラ菌を人為的に感染させようとしたテキサス工科大学の実験では(Lianら2020)、二種類の乳酸菌を含む生菌剤を投与した子牛でサルモネラに対する抵抗性が増す傾向が認められました。ここでのポイントは、菌種もさることながら、その投与した菌数です。研究チームは新生子牛に対して1日に2×10の9乗(109)個の菌を投与しました。その数、20億個です。そのほかの論文でも108(1億)~109(10億)個の菌数を投与している報告が多かったです。
実際の製品はどれくらい菌が入っている?
サッと手元にあった生菌剤パンフレットをみますと、添加剤に含まれる菌数は1g当たり106個から108個まで差がありました。それらの添加剤を用いて109個の菌数を与えようとすると、106個だと1000g(1kg)、108個だと10gになります。20kg袋で1万~数万円するような添加剤を1頭当たり毎日1kgも与えるのは現実的ではありません。一方で10gだと、子牛の代用乳に混ぜるなら与えやすいですが、TMRに混ぜることを考えると少量すぎてミキサー全体にうまく行き渡るかどうか不安が残ります。
パンフレットに書かれている添加量を、成牛のDMIを23kgとして計算してみました。すると、多くのメーカーで推奨している添加量に含まれる菌数は109個になりました。一方、1頭当たりの推奨給与量のコストは最安値と最高値で30円程度の開きがありました。100頭ぶん与えると、毎日3000円のコストの開きになります。1カ月で9万円、年間で108万円です。年間100万円をペイできるだけの機能面の差があれば投資に値しますが、その判断は慎重にすべきでしょう。
今回は生菌剤をチョイスするときのヒントを菌数とコストの面から考えてみました。考える順序としては、添加剤推奨給与量とそこに含まれる菌数およびそのコストを考えるところからスタートするということになります。
PROFILE/ 筆者プロフィール
泉 賢一Kenichi Izumi
1971年、札幌市のラーメン屋に産まれる。北大の畜産学科で草から畜産物を生産する反芻動物のロマンに魅了される。現在、農食環境学群循環農学類ルミノロジー研究室教授。2023年より酪農学園フィールド教育研究センター長。専門はルーメンを健康にする飼養管理。癒やしの時間はカミサンとの晩酌。