暑熱対策は今や北海道でも要注目のトピックです。『Dairy Japan 7月号』では「特集:暑熱対策―現場の取り組み」を紹介しました。
北海道天塩郡豊富町にある株式会社グリーンシード代表の山本政人さんは、夏でも牛が快適に過ごせる環境を作るために、エアコンの導入を決断しました。
牛舎の改良とエアコン導入
山本さんは2017年に新設された繋ぎ牛舎に縦断トンネル換気を採用しましたが、乳量が増えるにつれて換気ファンだけの暑熱対策に限界を感じていました。当然、暑熱ストレスを感じた牛は採食量が落ち、飲水量が高まることから糞が緩くなって牛体は汚れ、さらなる環境の悪化に。そこから派生する蹄病などにも悩まされていたと言います。
そこで付き合いのあった鳥山電機工事株式会社の鳥山社長が、牛舎にエアコン導入という事例を山本さんに紹介します。当時はまだ事例が少なく山本さんは懐疑的でしたが、エアコンによる暑熱対策の考え方を理解し導入しました。
グリーンシードの牛舎は、対尻式繋ぎ牛舎で100床の構造です。給飼通路の四隅に4台のエアコンを設置し、ダクトを伸ばし牛の首元に冷風が届くように設置しました。
除湿された空気で体感温度を下げる
いくらエアコンとはいえ、広い牛舎で換気もされている舎内の全体温度を下げることはできません。ここでのエアコン使用の目的は「牛の顔周りに涼しくて除湿された空気を流すことで、牛に涼しいと感じてもらい、採食量を増やすこと」でした。暑熱ストレスによるさまざまな弊害の多くは「エサを食べなくなること」に起因していると山本さんは考え、とにかく食べられるような環境を実現しました。
実際に昨夏に稼働すると、排水ドレーンから除湿された水分が小川のように流れてきたと言います。家庭用や事業所用エアコンを取り扱う鳥山社長は「見たことのない排水量」と言います。
この取り組みが奏功して、夏場に平均3kgは落ちていた乳量の落ち幅が1kgから1.5kg程度になり、さらに乳房炎や蹄病発生は山本さんの感覚で3分の1以下になったと言います。
エサが喰えると良い循環に
粗飼料の採食量が増えると、山本さんは乾乳期に備え、搾乳牛の時点から牛の腹作りに注力しました。「リンゴ型」の腹を目指し、粗飼料給与を意識します。このおかげで乾乳期から分娩前後の管理がスムーズになり、次乳期にもつながっています。
もちろん環境整備のみならず、山本さん自身ができる対策も行ないます。自動給飼機での多回給飼に合わせ、エサ押しの回数は1日8回。なかでも寝る前の一押しが効果的で、翌朝の残飼量が変わってくるそうです。
悪循環から好循環に
かつて暑熱ストレスによって悪循環に陥っていた頃を山本さんは「採食量が落ち、ルーメンアシドーシスや乳房炎、蹄病に悩まされ、治療費や出荷機会損失などの金銭的ロスと、治療対応や牛のケアなどによる時間的ロスが重なっていた」と振り返ります。
変化のきっかけは「自分が数時間作業するだけでヘトヘトになるのに、そこに24時間いる牛が辛くないわけない」と牛の立場になって考え始めたことでした。そこから「必要な投資」を見極め、積極的に投資を進めました。おかげで今は「さらに良くなるにはどうするか」と考える余裕が出てきたと言います。
PROFILE/ 筆者プロフィール
前田 真之介Shinnosuke Maeda
Dairy Japan編集部・北海道駐在。北海道内の魅力的な人・場所・牛・取り組みを求めて取材し、皆さんが前向きになれる情報共有をするべく活動しています。
取材の道中に美味しいアイスと絶景を探すのが好きです。
趣味はものづくりと外遊び。