『Dairy Japan 2024年4月号』p.12「下痢子牛には経口補液剤を効果的に使いましょう」より
子牛の下痢とは? 下痢子牛の体内で起こっていることは? 子牛の脱水のチェック方法は? 経口補液とは? などなど、味戸忠春教授(日本獣医生命科学大学)が詳しく解説してくださいました(以下、要約)。
下痢子牛に起こっていること
子牛の総体液量は体重の約70%もあり、そのなかの細胞外液(体重の約30%)という体液は栄養素や酸素を運搬したり老廃物を搬出したりするだけでなく、体の恒常性を保つ重要な役割を果たしています。
「体液」は、「水」と「電解質(塩分)」からできています。ですので、「脱水症」=「水と電解質が失われた状態」と言えます。
脱水症の程度(3段階)
脱水症の程度は、失われた体液の量によって3段階に分類されます。
・軽度:体重が3から5%減少
・中等度:体重が6から9%減少
・重度:体重が10%以上減少
明らかに異常が見られる場合は、すでに中等度から重度の脱水症と認識できて獣医師を呼ぶことができますが、わずかに脱水している「隠れ脱水」(1から2%の脱水)や軽度の脱水のときは、早く気づいて対策することが重要になります。
子牛の脱水症チェック
現場でできる子牛の脱水症チェックポイントは以下です。
1.目を観察する
脱水すると眼球と周囲の組織との間隔が開き、眼球が落ち込んで見えます(眼球陥没)。
2.頸部の皮膚をつまむ
皮膚の水分が低下すると弾力性が低下するため、つまんだ皮膚が元に戻る時間が長くなります(皮膚つまみテスト)。2秒以内に戻れば正常です。
3.口の中に手を入れる
ミルクを与えられている子牛は吸乳動作をしますが、脱水で食欲が見られません(吸乳反射の消失)。また、口の中の温度も低下します。
4.四肢の足首を掴む
脱水になると重要な臓器を優先して血液を供給します。すると四肢の血行が低下して温度が低下します(四肢温度の低下)。
このうち一つでも変化が見られたら脱水があると考えましょう。
経口補液とは
「経口補液」は「経口電解質療法」とも呼ばれ、脱水症に対する治療法です。とくに下痢を伴う軽度から中等度の脱水症において、手軽かつ安価に治療できる手段です。
下痢子牛に経口補液剤を投与する目的は、失われた体液や電解質を補充し、子牛を正のエネルギーバランスに維持することです。
ここで著者は、「下痢をした子牛は、はたして経口補液剤をゴクゴク飲んでくれるか?」という疑問の回答を示しています。
「いつも飲んでいるミルクや代用乳より美味しくないと思われますが、心配いりません。脱水症の子牛は水や電解質を欲しているので、美味しく感じて飲んでくれます。一方、脱水症のない正常な子牛に経口補液剤を与えても、体が必要としていないので飲んでくれないはずです」
断乳の是非
経口補液している下痢子牛への断乳について著者は、「哺乳を継続するメリットが高い報告があることから、哺乳を行ないながら2時間ほど時間をずらして経口補液剤を投与するほうが良いと思われます」と解説しています。
また、「個人的には1回ぶんは断乳しても大きな影響はないのではないかと思っていますので、1回目は経口補液剤を単独で投与し、その後は時間をずらして代用乳と経口補液を行なうことをお勧めします」としています。
最後に、「吸乳反射が消失している子牛は重度の脱水により経口補液の適用外の可能性があるので、その場合は、迷わず獣医師に往診を依頼してください。子牛の状態が安定したら経口補液療法の出番になります」と結んでいます。
PROFILE/ 筆者プロフィール
小川諒平Ryohei Ogawa
DairyJapan編集部。
1994年生まれ、千葉県出身で大学まで陸上競技(走り高跳び)に励む。
趣味はサッカー観戦。
取材先で刺激を受けながら日々奮闘中。
皆さんに有益な情報を届けるために全国各地にうかがいます。