『Dairy Japan』2024年2月号 p.42 ルポ3より
繁殖成績の改善には日々の管理や農場主の考え方が大きく影響します。当ルポで取材にうかがった藤野牧場は(福岡県那珂川市)、「ゲノム評価よりも自身の好む血統を重視した結果、高繁殖成績につながった」「乾乳期管理のカイゼン」と話してくれました。
●気質を一番に
藤野牧場は「気に入った気質の乳牛を残すことで繁殖成績が上がった」と血統を第一のポイントと話します。それでは、藤野さんにとって「残したい」乳牛とはどのようなものなのでしょうか。
「ゲノム検査も行なっていますが、血統を残すかどうかの判断は、ゲノムの総合評価の優劣ではありません」とキッパリ。「TPIが3000を超える乳牛に和牛ETを行なうこともあれば、2200でも後継牛を取ることもある」と教えてくれました。藤野さんが最も重視するのは「乳牛の気質。おとなしく扱いやすい乳牛。そして乳房炎耐性が高く、繁殖性の良い乳牛が自分の求める牛群」だと言い、ゲノム検査はこうした傾向を確認するために行なっているそうです。
現在、未経産牛は全頭ゲノム検査を実施。そのうえで、後継牛を確保しない育成牛には、初回からF1を授精するなどゲノム導入によって繁殖計画は大きく変わったとも藤野さん。
●改良の見直しがきっかけ
藤野さんは「もう一度、方向性をしっかり決めて改良を進めよう」と自家産の乳牛からの採卵も始めました。その際、獣医師から「採卵牛の繁殖成績も調べてみよう」と提案されたそう。それは「繁殖性の悪い乳牛の系統を残しても、牛群の成績向上につながらない」から。
そして自身が気に入った乳牛の検定成績を遡り、またゲノム検査の結果を見てみると、採卵予定牛は期待どおり繁殖性も極めて高かったと藤野さん。「その採卵牛の母牛は5産しましたが、過去の成績を見ると5回しかAIしていない。つまり5産ずっと受胎率100%」とその繁殖成績の良さを示してくれました。
現在、その乳牛の系統をOPUなどで増やし、1系統だけで40頭を数えるほどにまで増えたというから、その系統が経営を支える基礎にまで成長したことがわかります。
●乾乳期の管理で娘牛の発育も母牛の繁殖も変わる
次に繁殖を意識した管理で重要なポイントを聞くと「乾乳期の飼養管理」と藤野さん。「胎子の段階から栄養をきちんと得ていれば生まれ落ちに問題はないし、母牛も分娩前後のトラブルが激減する」と理由を答えてくれました。また、乾乳期の母牛の栄養管理は、分娩後授精タイミングで排卵される卵の品質にも関わってくると、乾乳期の栄養の大切さを教えてくれました。トラブルのない分娩管理と乾乳期の栄養管理が受胎性向上につながったわけです。
ちなみに、乾乳期間は乳牛をしっかり休ませ、次乳期と繁殖のための準備期間として60日を徹底しています。
PROFILE/ 筆者プロフィール
前田朋宏Tomohiro Maeda
Dairy Japan編集部・都内在住。
取材ではいつも「へぇ!」と驚かされることばかり。
業界に入って二十数年。普遍的技術、最新の技術、知恵と工夫、さまざまな側面があるから酪農は楽しい!