酪農役立ちコラム

水本牧場ブログ53:トレハロースとは?

JOURNAL 2026.10.15

微生物を利用するとき、「どんな微生物を入れるか」だけを考えてしまいがちです。
しかし、本当に大切なのは、その微生物が持っている能力を発揮できる環境を、どうつくるかということではないでしょうか。
その考え方の中で、私が知ったのが「トレハロース」です。

▼前回の記事はこちら
水本牧場ブログ52:自分の経営と、酪農業界全体を考える。

1. トレハロースは、グルコース同士が結合した糖

トレハロースは、グルコース(ブドウ糖)が2つ結合した二糖類です。
砂糖も二糖類ですが、砂糖がグルコースとフルクトースからできているのに対し、トレハロースはグルコース同士が結合しています。

このトレハロースは、特別に人工的につくられた物質というわけではありません。
自然界にも存在しており、酵母やキノコなど、さまざまな生物が持っている糖質です。

2. 「生体を守る」という働き

では、なぜトレハロースが注目されているのでしょうか。
大きな特徴の一つが、「生体を守る」という働きです。

生物にとって、水は非常に重要です。
細胞の中では、タンパク質や酵素、細胞膜などが水に囲まれた状態で働いています。そのため、乾燥や温度変化などによって水分状態が大きく変化すると、細胞や生体成分にストレスがかかります。
トレハロースには、水分子と相互作用し、生体成分を安定化させる性質があります。
そのため、乾燥や凍結などの環境ストレスから、細胞やタンパク質などを保護する目的で研究されてきました。
食品分野では、冷凍による品質低下を抑えたり、食品中の水分状態を安定させたりする目的などで利用されています。

3. 微生物の機能を維持しやすくする

また、トレハロースは非常に安定した糖質であり、食品などさまざまな分野で利用されています。
ここで、私が特に興味を持ったのが「微生物」との関係です。

農業分野では、微生物や酵素などを利用したバイオ資材があります。
しかし、微生物は生き物です。
温度や湿度などの環境条件によって、微生物そのものの状態や、微生物が持っている機能が影響を受けることがあります。
そこで利用されているのが、トレハロースの「守る」という性質です。

トレハロースそのものが、微生物を増やすための単純な「エサ」ということではありません。
むしろ、微生物や酵素が本来持っている機能を維持しやすくするための、保護・安定化という役割に意味があります。

農業分野でも、トレハロースを利用して微生物や酵素を安定化させ、バイオ肥料やバイオ農薬などの機能を維持する研究が行われています。
こうして考えると、トレハロースの良さは、「糖であること」以上に、「生物が環境ストレスを受けたとき、その機能を維持することを助ける」というところにあるように感じます。

4. 酪農の微生物にもつながる視点

そして、この考え方は酪農にもつながってくるのではないでしょうか。
酪農でも、微生物は非常に重要な存在です。

牛のルーメンの中には、多種多様な微生物が存在し、それらが飼料の分解や発酵に関わっています。
また、糞尿や堆肥、牛舎環境にも、数え切れないほどの微生物が存在しています。
だからこそ、「微生物を使う」という発想を考えるときには、微生物そのものだけではなく、その微生物が生き、働く環境まで考える必要があるのではないでしょうか。

トレハロースについて調べていると、「微生物を増やす」ことと、「微生物が能力を発揮できる状態を守る」ことは、別の視点なのだと感じます。
これは、酪農における微生物の利用を考える上でも、大切な視点だと思います。

5. 微生物が働ける環境をつくり、守る

「良い微生物を入れれば、それで終わり」ではない。
その微生物が働きやすい環境をつくり、その状態を維持する。
そこまで考えて初めて、微生物の持っている能力を生かすことができるのではないでしょうか。

糖質という身近なものが、食品だけではなく、植物、微生物、酵素、そして持続可能な農業にも関わっている。
トレハロースは、単なる「糖」ではなく、生物と環境の間にある関係を考えるきっかけになる素材なのかもしれません。

酪農でも、目に見えるものだけを見るのではなく、牛の体の中や牛舎、糞尿の中で働いている、目に見えない微生物まで含めて考える。
微生物そのものを見るだけではなく、「微生物がどうすれば働けるのか」を観察する。
そうした視点を持つことで、今までとは違った酪農の可能性が見えてくるのではないかと思っています。

次回は、実際に使用した結果を紹介します。

▼参考リンク
多機能糖質「トレハロース」|研究開発ストーリー|研究開発|ナガセヴィータ株式会社
トレハ®A飼料 | NAGASEグループ

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PROFILE/ 筆者プロフィール

水本 康洋

水本 康洋

1983年、別海町の酪農家生まれ。
北海道立農業大学校卒で、帯広市の酪農ヘルパーを経て、実家に就農。
その後、実家を離れ、浜中町にて研修後、2016年4月に新規就農し、現在に至る。

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