前回は、コクシジウム感染後に獲得する再感染抵抗性についてお話しました。そして、その再感染抵抗性は感染直後から徐々に備わっていくということについても触れました。このことは、十分な抵抗性は獲得しているが、まだ糞便中にオーシストが大量に排出されない、あるいは症状が強く出ないタイミングが存在することを示唆しています。私はこの仮説をもとに、抗コクシジウム薬の効果的な予防的投与のタイミングを探る試験を行ないました。
試験は、離乳後に育成舎に移動すると必ずと言ってよいほどコクシジウムによる下痢を発症する酪農家で行ないました。
抗コクシジウム薬は、生活環のすべてのステージに作用するトルトラズリル製剤(バイコックス:エランコジャパン株式会社)を用いました。
抗コクシジウム薬の投与タイミングを、育成舎移動後0週(移動直後:0W群)、1週(1W群)、2週(2W群)に設け、無投与(No Treatment:NT群)含め計4群、各群4頭の計16頭の育成牛を供試し、各々移動直後から8週目まで1週間ごとに9回、胸囲(推定体重)の測定と糞便中のオーシスト数(OPG)を測定しました(図1)。

図1 試験概要
結果を図2に示します。

図2 各群の試験期間中のOPGの推移
各群の4頭のOPGの推移は、それぞれ異なる色の折れ線グラフで表しています。ピンク色の三角形はトルトラズリル製剤の作用期間を指します。色のついた四角には検出されたオーシストの種類と数を示してあります。
NT群では移動後3〜5週、0W群は3〜8週にかけて、1W群では5〜7週にかけて複数の牛がピークを形成しています。一方、2W群では1頭を除きOPGの排出はほとんど見られないという結果になりました。
これは、移動直後や移動後1週での投与では、十分な再感染抵抗性を獲得する前の駆虫となり、トルトラズリル製剤の効果が切れたあとに発症してしまったからだと考えられました。実際に下痢の発症率の低さや日増体量(Daily Gain: DG)の大きさを見てみても、2W群が他群と比べ優位でした(図3)。

図3 試験期間中に検出されたコクシジウムの種類と各群の平均DG
今回の試験結果から、対象とする群のOPGピークが最も早く表れる時期より1週間ほど前に駆虫を行なうことで、コクシジウムの影響を最小限に抑えた状態で再感染抵抗性を獲得できることが示唆されました。また逆に、適期以外に投与を行なうと、トルトラズリル製剤が作用している期間は一見発症を抑えられているように見えますが、薬の効果が切れたあとに発症し、環境を汚染してしまう可能性も考えられました。
このように抗コクシジウム薬を上手に使うことによって、牛群のコクシジウム症の発症を抑えられるだけでなく、オーシストの排出による環境の汚染も防ぐことができます。ただし、一つ注意が必要なのは、これはあくまでもこの農場の汚染度だから得られた結果であり、汚染度によって投与タイミングが異なるケースも十分考えられます。だからといって、私の試験のように糞便検査を毎週行なうことは難しい方もいらっしゃると思います。
そこでまずは、自分の牛群は、どの時期にコクシジウム症を発症することが多いかを把握し、その1週間前に駆虫を行なうことから始めてみてください。もしそれでも発症を抑えられない場合は、担当の獣医師の方に相談し、糞便検査を行なってもらうと良いかもしれません。抗コクシジウム薬は安価ではないので、どうせなら効果的に使いたいですよね。ぜひお困りの方は試してみてください。
さて、長期間にわたりコクシジウムについて語らせていただきました。次回は総まとめに入りたいと思います。もう少々お付き合いください。
PROFILE/ 筆者プロフィール
山下祐輔YamashitaYusuke
小動物臨床志望で麻布大学に入学するも、農場実習や産業動物臨床実習をとおして、酪農・畜産の世界に魅せられ、北海道北部の上川北農業共済組合(現北海道農業共済組合道央上川センター上川北支所)に入組して18年。乳牛・肉牛の一般診療、繁殖検診、損害防止事業、人工授精、受精卵移植を担当する傍ら、生産者の素朴な疑問をヒントに調査研究を行なうことが日々の楽しみ。




