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水本牧場ブログ29:暑熱ストレスを制する上で知っておきたい「THI」について NO.4

JOURNAL 2025.08.08

 前回は、送風機と換気扇の役割の違いと、THI対策としての同時活用による効果についてお話ししました。

 今回はもう一つ、うちで取り組んでいる暑熱対策「ナイアシン入り飼料」についてお話しします。

ナイアシンとは?

 ビタミンB群の一種で、体内で約500種類もの酵素の働きを助ける「補酵素」として、生命活動の根幹を支える、さまざまな役割を担っています。牛が体内でエネルギーを作り出し、健康を維持するために不可欠な栄養素です。

暑熱対策におけるナイアシンの主な役割

 ナイアシンが乳牛の暑熱ストレスに効果を発揮する最大の理由は、その「血管拡張作用」にあります。ナイアシンには体表近くの末梢血管を拡張させる働きがあります。血管が広がることで皮膚への血流が増加し、体内にこもった熱を効率的に体外へ逃がすことができます。これにより、牛の体温上昇が抑制されます。

 また、暑熱ストレス下では、牛は体温を下げるために多くのエネルギーを消費します。
 一方で、食欲が低下するため、エネルギー摂取量が不足しがちになります。ナイアシンは、糖質や脂質、蛋白質の代謝を助ける補酵素として働き、摂取した栄養を効率良くエネルギーに変えるのを助けます。

暑熱対策以外での、牛への具体的な効果

・ケトーシスの予防・抑制
 肝臓でのエネルギー代謝を助け、体脂肪の過剰な動員を抑制することで、ケトン体の生成を抑える働きがあります。

・脂肪肝の予防
 急激な体脂肪の分解は、肝臓に中性脂肪が蓄積する「脂肪肝」を引き起こし、肝機能の低下を招きます。ナイアシンは、この脂肪動員を穏やかにし、肝臓の負担を軽減することで脂肪肝を予防します。

 このように、ナイアシンは暑熱対策の「切り札」となるだけでなく、疾病予防、生産性、繁殖など、牛達の健康を力強くサポートする重要な栄養素です。

 うちでは数年前から使い始め、暑熱対策で給与したときに良い効果を感じられたので、疾病予防、生産性の向上を目的として分娩後数日、給与していました。

 現在は、分娩前後でアミノ酸を給与しているので、暑熱対策のみで使用しています。今年の厳しい暑さでも、送風、換気と合わせてナイアシンの給与で、最小限の乳量減少で耐えることができています。

 個人的な意見ですが、ナイアシンの暑熱対策以外の活用方法として、搾乳速度の遅い牛や体細胞数の高い牛に給与することで、代謝が良くなり、改善に向かうと考えています。
 分娩後の使用方法として、メチオニン製剤やカルシウム製剤と一緒に給与することで、吸収率が良くなるのではないかと考えています。
 血管拡張作用を利用して、予防薬、治療薬と合わせて使用することで、良い効果が発揮されるとも考えます。ほかにもいろいろな活用方法があるのではないかと思いますので、試してみる価値はありそうです。

 ナイアシンは、私達が飲む、清涼飲料水にも使われるほど身近なものです。その活用は、牛達の健康を守り、牧場経営を維持するためのサポートになると同時に、経営をさらに向上させるための前向きな「投資」でもあると思います。

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PROFILE/ 筆者プロフィール

水本 康洋

水本 康洋

1983年、別海町の酪農家生まれ。
北海道立農業大学校卒で、帯広市の酪農ヘルパーを経て、実家に就農。
その後、実家を離れ、浜中町にて研修後、2016年4月に新規就農し、現在に至る。

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