酪農技術情報

目標成長(ターゲットグロース)と現場での活用法

JOURNAL 2025.04.22

小川諒平

小川諒平Ryohei Ogawa

『Dairy Japan 2024年7月号』P.24「初産分娩までが未来の経営を左右する No.5–目標成長と現場での活用法 —」より

 育成牛は、あなたの農場の将来の牛群です。ですから育成管理の改善は、経営基盤の強化と言えます。
 育成管理の改善に軸足を置いた「初産分娩までが未来の経営を左右する」と題したシリーズで、海田佳宏さん(株式会社 清流酪農サービス・代表)が詳しく解説してくださいました。
 今回は、その5回目です。以下、抜粋・要約。

目標成長(ターゲットグロース)とは

 牛の体格は、それぞれの農場で乳牛改良方針が異なるため、同一ではありません。初産分娩月齢も農場ごとに異なります。そのため、ステージごとの好ましい育成牛の体格も各農場で異なります。
 そこで登場したのが「目標成長(ターゲットグロース)」の概念です。
 それは、成牛の体格から逆算した育成牛の発育目標です。『乳牛栄養要求 NASEM 2021』(Dairy Japan刊)に詳しく示されています。NASEMによると、成熟時の体重を100としたときに、受胎時は成熟体重の55%、初産分娩後は82%です。つまり成熟体重が750kgだと、受胎時で750kg×55%kg=413kg、初産分娩後で750kg×82%kg=615kgの体格が成長目標になるということです。

目標設定のポイント

 成熟体重は、飼料設計でも活用する重要な情報です。その計測は、成長が完了した4産以上の経産牛を対象とします。注意点は、ボディコンディション・スコア(BCS)です。BCSの違いが体重に影響するため、成熟体重はBCS3.0を基準にします。
 BCS1.0当たり体重84kgに相当することから、BCS0.25当たり21kg加減補正します。BCS0.5であれば42kg加減します。
 例えば、測定した牛の体重が750kg・BCS3.5だとしたら、BCS0.5スコアぶん、すなわち42kg減らし、成熟体重700kg−42kg=658kgとします。BCS2.5だとしたら、BCS0.5スコアぶん、すなわち42kg増やし、成熟体重750kg+42kg=792kgとします。

目標成長(ターゲットグロース)の活用例

 育成牛の成長は、栄養不足による発育停滞はもとより、栄養過剰による過肥も繁殖不良や代謝病の誘発、初産次の乳量低下などに影響し、経営に及ぼす影響は少なくありません。目標成長(ターゲットグロース)に基づいた発育評価を実施することで、農場の実情に則したステージ別の問題発見が容易になります。
 目標成長(ターゲットグロース)の農場活用方法について紹介します。
 全頭の体重・体高を定期的に測定することは大変な苦労となるので、特定の月齢を抽出し、それらの月齢で集計した結果に基づき評価するのが便利です。
 私は、成熟体重と分娩後の初産牛の測定に加えて「2カ月齢」「6カ月齢」「12カ月齢」で定期的な発育評価をお勧めしています。その理由は、比較的個体の捕獲計測をしやすい月齢であるためです。実際は農場の実情に応じた月齢で計測・評価することが良いでしょう。

=計測1=
 「2カ月齢」前後の子牛の体重と体高を測定する。数頭測定して平均を算出する(以下同じ)。
=計測2=
 「6カ月齢」前後の育成牛の体重と体高を測定する。
=計測3=
 「12カ月齢」前後の授精前育成牛の体重と体高を測定する。
=計測4=
 「分娩して1カ月後程度の初産牛」の体重と体高を測定する。
=計測5=
 「3から4産以上の成牛」の体重と体高を測定する(初回測定以降は不定期)。

=評価1=
 計測1より、「2カ月齢」の体格を評価する。この月齢で発育が遅延している場合は、哺乳時期の失敗を意味する。
=評価2=
 計測5から、目標成長により「6カ月齢」「12カ月齢」「初産分娩時」の体重・体高を設定する。「2カ月齢」と「6カ月齢」の発育を確認し、「2カ月齢」の発育は良好で「6カ月齢」の発育が劣っている場合は、離乳後の発育不良を意味する。
=評価3=
 「12カ月齢」の発育が劣る場合は、種付け時期が遅れるので、「2カ月齢」と「6カ月齢」の発育を確認して、どのステージに問題があるのか検証する。
=評価4=
 「初産分娩時」の体格が劣る場合は、種付け以降の発育が停滞している可能性があるので、「12カ月齢」の発育と合わせて検証する。
=評価5=
 発育不良とは逆に、過肥となっている場合は、どのステージで過剰給与になっているのか検証する。
=評価6=
 問題発見に至らない場合は、追加の計測を実施し検証をする。

 以上の手順で計測・評価して、発育の問題点について探ってみてはいかがでしょうか。

 本稿(Dairy Japan 2024年7月号)では、目標成長(ターゲットグロース)とステージごとの体重(成熟体重別)や、実際の農場別成牛の体重・体高の調査結果なども詳しく紹介されています。

PROFILE/ 筆者プロフィール

小川諒平

小川諒平Ryohei Ogawa

DairyJapan編集部。
1994年生まれ、千葉県出身で大学まで陸上競技(走り高跳び)に励む。
趣味はサッカー観戦。
取材先で刺激を受けながら日々奮闘中。
皆さんに有益な情報を届けるために全国各地にうかがいます。

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