
『Dairy Japan』2025年1月号p.42「ルポ2」より
厳しい酪農情勢のなかでも、個体乳量の向上や飼料生産の効率化、地域企業との連携を通じて、持続可能な経営を追求している、プロスパーデーリーファームの取り組みを取材した。
経営方針をシフト
岩手県の有限会社プロスパーデーリーファームは、代表の松本剛さんの父が38床の繋ぎ牛舎からスタートし、剛さんが2代目として経営を担っています。現在は妻の燈さんと従業員とともに、約400頭の乳牛を飼養しています。2000年には牧草地を整備し、現在の牛舎を新設。法人化を経て、約10年前に経営が剛さんに引き継がれました。
「父は牛を増やして売上を伸ばす“攻め”の経営だったが、自分は牧場規模に適した頭数に絞り、効率的な飼養を目指す方針に切り替えた」と剛さんは振り返ります。
搾乳牛を計画的に減らすことで、一人ひとりの作業に余裕が現れ、牛の健康管理に注力できるようになりました。
燈さんは「以前は治療中心だったが、今は予防がメイン。経営も安定してきた」と語ります。加えて、堆肥処理を目的にデントコーンを作付けし、ドライフォグ設置や大腸菌性乳房炎ワクチンの導入など、牛の健康を守る施策を進めてきました。

酪農情勢の激変を受けて
経営が軌道に乗ってきたと感じていた時期に、飼料やエネルギーコストの高騰、円安の影響などで経営環境は急変しました。燈さんは「通帳とにらめっこする日が続き、不安だった」と振り返ります。剛さんも「これまで計画していたことが頓挫した」と話しますが、「景気が良いときに暑熱対策などの準備ができていたことが救いだった」とも語ります。
2024年は、乳価の上昇が一つの希望となりましたが、依然として経営は厳しい状況です。その打開策として取り組んだのが土壌分析です。データを基に施肥管理を見直し、雑草対策に最適な除草剤に切り替えたことで、デントコーンの収量が増加。「作付面積を増やすのではなく、限られた圃場でどれだけのエネルギーを生産できるかが重要」と剛さんは強調します。
今後は作付け面積の拡大も視野に入れていますが、そこに立ちはだかるのが“雇用の壁”。「入社がゴールではなく、戦力化が重要。会社としてその基盤を作りたい」と燈さんは話します。

個体乳量にこだわる
2025年の経営方針として掲げるのが「頭数はそのままに、個体乳量をいかに高めるか」。頭数を増やすことで売上は伸びますが、それに伴い事故や治療のリスクも増えます。だからこそ、1頭1頭を丁寧に観察し、変化に早く気づく体制を重視しています。
さらに、2年前からゲノム検査を導入し、牛群の改良にも力を入れています。「将来の能力が見えることで、より戦略的な飼養が可能になる」と剛さんは期待を寄せます。
地域企業との連携
地域のフレンチレストラン「AZUMANESOKO」と連携し、ジェラート販売も行なっています。このジェラートは県内外からの人気を集めています。2025年はさらなる協力で、チーズの販売も予定しています。「こうした場所に生乳を供給し、いろいろな人が乳製品に触れることは、酪農を知ってもらうきっかけになる。なにより他業種のエネルギッシュな人達との関わりは私達も元気になる」と燈さんは笑顔で話します。
今後は、店頭販売に加えてECサイトも開設し、チーズやジェラートの販路拡大を目指します。
最後に剛さんは、「国内の農畜産業は国力そのもの。私達40代が若手を引っ張って、業界を盛り上げたい」と力強く締めくくりました。

PROFILE/ 筆者プロフィール

小川諒平Ryohei Ogawa
DairyJapan編集部。
1994年生まれ、千葉県出身で大学まで陸上競技(走り高跳び)に励む。
趣味はサッカー観戦。
取材先で刺激を受けながら日々奮闘中。
皆さんに有益な情報を届けるために全国各地にうかがいます。