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遺伝改良と繁殖

JOURNAL 2025.01.17

寺内 宏光

寺内 宏光Hiromitsu Terauchi

 らくちっくラジオの寺内です。

 今回は遺伝形質の一つであるDPR(娘牛妊娠率)について、「DPRの遺伝率が低いと聞いたが、どう考えるべきか」という質問に答えます。

 私の意見は主に以下の2点にまとめられます。

①DPRは重要だが、遺伝率が低いため改良方針のメインに据えても繁殖の問題が解決するとは限らない。

②総合指数のメリットを理解して選択形質に入れておくことが重要。

 牧場のゲノム検査をすると、牛群平均DPRが著しく低いことがあります。そのような牛群は実際に繁殖に悩まれている場合が多いです。しかし、「遺伝的な問題で繁殖が悪かったのか! 」と鵜呑みにして、以降の精液選択はDPRを重視しようと考えるのは早計かもしれません。牛群の改良方針は目の前の課題解決ではなく、中長期的な視点で考えるものです。

<DPRの遺伝率>

 DPRの遺伝率は4%とされています。非常に単純化して考えると、現在の妊娠率について4%が遺伝の影響で、96%は飼養管理の結果であると言えます。
 牛群平均DPRが低く、実際に牧場の繁殖成績が悪いとしても、基本的には飼養管理改善の優先順位が高く、並行して遺伝改良も検討するという順序であるべきだろうと私は考えます。

<総合指数の中での重み付けで考える>

 では、遺伝率の低いDPRの改良はコスパが悪いのではないか? という疑問が湧きます。しかし、遺伝率の高い低いで選択形質を決めることは、将来の収益性にマイナスの影響を与えるかもしれません。つまり短期的なコスパの問題ではない、ということです。

 遺伝率は改良の方針を考えるうえで考慮すべきことの一つでしかありません。遺伝率が低かったとしても、重要な形質にはある程度の重み付けが必要です。繁殖性を軽視して、じりじりと牛群の遺伝的な繁殖能力を低下させれば大きな損失を招きます。

 多くの重要な形質を低下させずに改良するために考え出されたのが「総合指数(NM$やTPIなど)」です。「インデックス」と呼ぶ場合もあります。総合指数は収益性が最大になるように各形質が重み付けされた評価値です。

 この総合指数の重要な役割の一つに「特定の形質が下がるのを防止する」があります。乳量を上げても繁殖性が下がらないようバランスを取る、というイメージです。ただし、総合指数が高い個体であっても、すべての形質が良い成績というわけではありません。例えば、TPIトップの種雄牛でも繁殖性の評価が低い一方で、それをカバーするだけ生産能力が高い個体も存在します。

 DPRを重視しすぎると、「繁殖性がやや劣るけれど、それを補って余りある収益性の高い牛」が選択肢から外れます。それを理解したうえであれば良いのですが、早合点で牛群平均DPR向上を目指すと、せっかくの総合指数のメリットを十分に得られない可能性があります。農場独自のインデックスを作成する場合にも機会損失とならないよう知っておいたほうが良いことだと思います。

 大切なことはやはり、どんな牛群にしたいのか、ということです。牧場の条件や畜主の考え方で、牧場によって理想のスタイルは異なります。上の図のように、国ごとでも重み付けが大きく違うのですから、農場ごとではなおのことでしょう。

 繁殖は生産計画の要ですが、牧場の継続には収益性こそ大切です。

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PROFILE/ 筆者プロフィール

寺内 宏光

寺内 宏光Hiromitsu Terauchi

北海道にて酪農場勤務と㈱トータルハードマネジメントサービスでの修行を経て、2016年より栃木県にて家業の寺内動物病院を三代目として継承。より広く地域のニーズに応えるため2022年より法人化し、現在は獣医師4人在籍する㈱寺内動物病院の代表

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