前回の続きです。
牛にも酪農家さんにも獣医師にも辛い日々が続きましたが、正月を過ぎるとRSウイルスによる肺炎は急速に終息していきました。RSウイルスが本気を出すと、1週間41℃以上の発熱が続き、さまざまな処置をするものの、まったく熱が下がらなくなります。41℃以上の熱が1週間続くのです。牛もかなり辛そうです。しかし、1週間を過ぎるとびっくりするくらいスコンと熱が下がります。人間のインフルエンザによく似ています(人間のインフルエンザは良い抗ウイルス薬があるので、今はそんなに熱が続くことはなくなりましたが)。
以前からRSウイルスは悪いやつだと思っていたのですが、対策が甘かったようです。5種混合や6種混合ワクチンなどは接種をしていたのですが。
そこで、ワクチンメーカーの偉い方に相談させていただきました。その際「流行が始まる1カ月前くらいに若齢の子牛だけでなく、一つ屋根の下に同居している牛全体にRS単味ワクチン(RSだけのワクチン)を追加で接種したほうが良いですよ。」というアドバイスをいただきました。下にイメージ図を載せておきます。
そのアドバイスはスコンと自分の心の中に入りました。現場で診療していた獣医として呼吸器病は、比較的大きな牛から月齢の若い子牛に流れてきているのかもと思っていたからです。大きな牛は熱が多少あっても、鼻水や咳が多少出ていてもエサを食べてくれます。なので、治療されることも少ないです。しかし大きな牛達の体内でウイルスは増殖し、それが下流に流れて子牛の肺炎大流行を起こすのでは? となんとなく推測しておりました。集団肺炎を起こさないカギは子牛以外の同居牛が握っているのかもと。
そのアドバイスを受け、2015年秋は通常のワクチンに加え、RS単味ワクチンを子牛や子牛と同居する牛に全体的に接種することに決めました(酪農も肥育も)。初めての試みでしたので、農家さんになぜそのように接種したいのかを詳しく説明して、理解を得られたので、初年度はとりあえず1200頭近くの牛にRSワクチンを接種することにしました。
図1、今までのワクチン接種イメージ図(赤丸の牛がターゲット)
図2、RSの被害を軽減させるためのワクチン接種イメージ図(赤丸を全体に広げる)
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PROFILE/ 筆者プロフィール
宮島 吉範Yoshinori Miyajima
千葉県の一般家庭に生まれる。麻布大学 栄養学研究室を卒業後(有)あかばね動物クリニックに入社し獣医師として25年。現在は、乳牛・肥育牛(主に交雑種)・繁殖和牛を担当する。乳牛においては診療・繁殖検診・搾乳立会・人工授精・受精卵移植・コンサルティングなどを行なう。趣味は妻との居酒屋や蕎麦屋巡り。