『Dairy Japan』2024年8月号p.42「ルポ2」より
岐阜県高山市で県内一の飼養頭数と乳量を誇る株式会社SUNRISE CATTLE FARMは、多くの従業員を雇用しています。人が集まるための工夫や、一人ひとりが活躍できる環境にするための取り組みを聞きました。
雇用を惜しまない
昨今の円安や酪農情勢の厳しさにより、賃上げや外国人実習生の受け入れなどが難しくなってきていますが、同社を取り仕切る足立松吾さんは「人件費は酪農経費の中では小さいほうだ」と言い、雇用人数の削減は現時点では考えておらず、今後も維持していく方針です。
会社の見せ方に一工夫
同社は以前からインターネット求人サイトや、牧場HPなどを通じて人員を募ってきましたが、近年、大きく変化した部分は「SNSが普及してきたこと」と足立さん。多くの若者がSNSを利用していることに着目し、同社でもSNSの活用に注力しています。その投稿内容は、愛くるしい牛達の写真や動画に加え、従業員達が働く姿など多岐にわたります。投稿について足立さんは「牧場で働くことのリアルを伝えることを意識している」と話します。これにより入社時の理想と現実とのギャップが生まれにくいと言います。
就職合同説明会にも積極的に参加し、スタッフが直接就職希望者と関わることで牧場の魅力を伝えています。説明会用に親しみやすいデザインが施された会社パンフレットやPRビデオを作成したりと、牧場のイメージを効果的に伝えることにも注力しています。
自由な休暇制度
志願者達の入社理由を聞くと、「『牛が好きだから』が多い」と足立さん。しかし、『牛が好き』という理由だけで働き始めると、理想と現実とのギャップに苦しみ離職してしまうケースもあり、それを避けるため今後は、一般企業と同水準の休暇を確保し、就業時間を8時間以内に抑える工夫が必要だと言います。
同社は、毎月20日を全社員の出勤日とし、その日に行なわれる全体ミーティングで従業員の休暇日程を決めています。希望日が重なれば話し合いで調整し、なるべく従業員の希望に添えるように、固定的なシフト制ではなく柔軟に対応しています。
ミーティング日は、足立さんと従業員との個別ミーティングの時間も設けています。個別ミーティングでは、足立さんが一方的に指摘や指示を伝えるのではなく、従業員からの意見や仕事をするなかでの気づきを聞いたり、従業員を賞賛するといった時間にしています。これにより出たアイデアは作業に反映され、従業員が働きやすい環境が整えられています。
無駄を省く
同牧場は、現有の人材、もしくはより少ない人材で農場運営を円滑に行なえるように業務の効率化を図ります。そのために“無駄なこだわり”をなくすことに果敢に取り組んでいます。足立さんが就農する前から行なっていた作業について、「本当に必要か? 」「ほかに適切な方法はないか? 」と疑問を投げかけ、計画的に改善を図ることで、乳量や繁殖成績を落とさずに管理できたと言います。「初めは勇気が必要だったが、長年惰性で行なってきた作業に疑問を抱き、変更することで実際に効果が現れ、作業が省力化され、従業員の労働時間の短縮にもつながった」と足立さん。
地元密着の企業へ
足立さんは今後の課題として、「安定した基盤を作ることだ」と言います。そのために「『飛騨牛乳』『飛騨牛』のブランドを絶やさないこと。さらには『6次化』を通じて、飛騨という観光地を盛り上げる企業になりたい」と力強く語ります。「これらの取り組みにより企業として成長し、どんな困難にも負けない基盤を作っていきたい。それが同時にスタッフの生活を支えることにもつながる」と自信を覗かせます。
PROFILE/ 筆者プロフィール
小川諒平Ryohei Ogawa
DairyJapan編集部。
1994年生まれ、千葉県出身で大学まで陸上競技(走り高跳び)に励む。
趣味はサッカー観戦。
取材先で刺激を受けながら日々奮闘中。
皆さんに有益な情報を届けるために全国各地にうかがいます。