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ルミノブログ3:牧草の早刈り

JOURNAL 2024.05.23

泉 賢一

泉 賢一Kenichi Izumi

牧草早刈り試験

 本学では昨年からオーチャードグラスとアルファルファ混播草地の早刈り試験をしています。早刈りによって牧草の栄養価は上がると言われていますが、実際に栄養価や乳生産がどの程度向上し、それらの長所が作業負担などの短所を上回ることができるかどうかを検証し、普及につなげるのが目的です。

 結果については今後、公表していく予定ですが、牧草早刈りに関するアメリカの情報をお伝えします。私は、昨年6月にアメリカ東北部を視察する機会がありました。

 現地では、青々としたイネ科牧草とアルファルファの混播草地が広がっていました。近くで見ると牧草の上端がカットされていました。

 研究所のスタッフに聞いたところ、5月23日頃に刈り取った後の再生草とのことでした。草種はアルファルファ、トールフェスク、メドウフェスク、リードカナリーグラスのブレンドでした。ちなみに、こちらでは年に4~5回、28から30日間隔で牧草収穫を繰り返していくそうです。話に聞いていた、早刈りの多回刈りです。研究所のある地域はカナダとの国境に近く、気温や積雪の状況は札幌市近郊とほぼ一緒でした。札幌市近郊で5月の、この時期に牧草を刈り取るのはかなりの早刈りです。繊維の消化率を高めて粗飼料からのエネルギー供給量を最大化することの重要性は、大学関係者の講義でも視察に訪れた農場経営者からも口々に聞かされました。とにかく粗飼料の栄養価を高めて、濃厚飼料の給与量を減らすことが基本だということです。

チモシー2回刈りは……

 北海道で一般的なチモシーの2回刈りについて質問してみると、アメリカ北東部ではとても珍しいとの答えが返ってきました。「年2回しか収穫しなければ、牧草は刈り遅れとなるので、高泌乳牛の栄養要求量を満たすことはできない。仮に2回刈りの牧草を収穫するなら、泌乳していないウシに与えるしかない」と一刀両断されてしまいました。

 わが国では、粗飼料生産圃場の狭い酪農場が珍しくありません。そのような酪農場では、粗飼料栄養価は二の次で、とにかくガサのある繊維源を収穫することを優先しなければいけないケースがあります。牧草の早刈りは、あくまでも土地に余裕がある場合では、という前提条件がつきます。

 早刈りすると多回刈りしなければいけなくなり、労働力や機械のコストがかさみます。草地の維持や更新にも高レベルな管理が求められます。デメリットも小さくありませんが、飼料価格高騰の現在では多回刈りに取り組む価値があると私はにらんでいます。

 成果については、今後も折に触れご紹介していこうと思っています。

PROFILE/ 筆者プロフィール

泉 賢一

泉 賢一Kenichi Izumi

1971年、札幌市のラーメン屋に産まれる。北大の畜産学科で草から畜産物を生産する反芻動物のロマンに魅了される。現在、農食環境学群循環農学類ルミノロジー研究室教授。2023年より酪農学園フィールド教育研究センター長。専門はルーメンを健康にする飼養管理。癒やしの時間はカミサンとの晩酌。

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