飼料費や燃料費の高騰により、多くの農場が厳しい経営環境に直面している今、乳価の上昇には限界があり、このような状況では「支出の削減」と「収入の増加」が重要な課題となっています。そんななか、北海道鶴居村にある株式会社伊藤デイリーが進める経営効率改善の取り組みをご紹介します。
大規模経営の苦悩
株式会社伊藤デイリーは、経産牛650頭、未経産牛450頭を飼養し、フリーストール牛舎やバイオガスプラントなどの設備を備えた企業型酪農場です。しかし、そうした大規模経営も、近年のコスト高騰の影響を受けて収益が圧迫されています。伊藤和宏社長は「とくにこの2年間は、飼料費の値上がりなどで厳しい状況が続いている」と語ります。
それでも、同社はコスト削減努力だけでなく、積極的な経営選択を重視しています。その一例が、バイオガス発電の導入です。
バイオガス発電の成功
同社は数年前より、バイオガスプラントを活用した発電を行なっています。このプラント稼働により、売電収入が得られるだけでなく、糞尿の処理コストも削減できました。さらに化学肥料の施肥量も減り、コスト面で大きな効果を得ることができました。
また、固液分離・発酵後の糞尿(≒戻し堆肥)を牛舎通路に散布することで、肢蹄の保護や通路の劣化も防止しています。
伊藤順一会長は「厄介者だった糞尿がお金を生んでくれた」とバイオガス発電の経済効果に満足しています。同社では、このシステムをさらに発展させ、2024年から発電量を300kwに増やすなど、さらなる収益向上を目指しています。
和牛ETでの収入増加
収入増加のためのもう一つの取り組みとして、ET(胚移植)を利用した和牛子牛の生産にも力を入れています。同社は、ホルスタイン子牛と同じ数の和牛子牛を育て、市場で販売しています。和牛の管理は難しい面もありますが、伊藤康宏専務は「血統と品質にこだわり、良い和牛を育て続けることで、市場での信頼を得ていく」と意欲的です。
哺育管理の効率化
同社では哺育管理にも工夫が施されており、カーフレールやカーフフィーダーを導入して省力化と管理の質向上を実現しています。移行乳を有効活用することで、粉ミルクの購入費を大幅に削減することができました。
和牛子牛の販売価格も45日齢で30万から45万円を維持しており、収益を確保するうえで大きな役割を果たしています。
今後の展望について、和宏社長は「チャンスがあればさらなる投資を続けていきたい」と語ります。同時に「従業員満足度の向上にも力を入れ、前向きに働ける環境を整えることで、最大のパフォーマンスを引き出したい」と常に前向きです。
PROFILE/ 筆者プロフィール
前田 真之介Shinnosuke Maeda
Dairy Japan編集部・北海道駐在。北海道内の魅力的な人・場所・牛・取り組みを求めて取材し、皆さんが前向きになれる情報共有をするべく活動しています。
取材の道中に美味しいアイスと絶景を探すのが好きです。
趣味はものづくりと外遊び。