デイリーコンパストレーニング&セミナー2024
チームデイリーコンパスは5月27・28日に「デイリーコンパストレーニング2024」を、5月29日に「デイリーコンパスセミナー2024」を開催した。それぞれ米国ミシガン州立大学のベリー ブラッドフォード博士が講演した。
本トレーニングは2日間にわたり、酪農経営者やアドバイザーなどに向けた専門的な講演が行なわれた。同博士による講演は2日間で8題、セミナーではそのうち3題が取り上げられた。講演タイトルは以下のとおり。
1)分娩後の炎症:生産性への影響とその対策
2)牛がどれだけ食べるかは、何によって決まるか
3)食餌性デンプンを最大限に活用する
4)乳牛のセンイ消化率に影響を与える給与飼料の要素
5)腸でのアシドーシス
6)フレッシュ牛への給与戦略がその乳期のパフォーマンスに与える影響
7)良好な健康、繁殖、生産性のための乾乳期管理
8)収益を上げるための決断:ホルスタインとジャージーの比較を例に考える
※デイリーコンパスセミナーでは1)・6)・8)を講演。
分娩後の炎症と免疫のコントロール
講演1)で同博士は、乳牛の分娩後の炎症への対応を中心に解説。冒頭で、乳牛の健康は“寛容”と“免疫反応”がバランス良く保たれているうえで成り立っているとした。病原物質が体内に侵入したとき、ある一定基準まで寛容したのち、寛容が行き過ぎた場合に体内の免疫機能が働き反応(炎症)が起こる。乳牛では、乳房炎原因菌に感染し体細胞数の上昇や炎症という形で反応が起こるのがよく見られる例だ。
このバランスを調節することが乳牛の健康の鍵となり、その方法の一つは免疫反応をサポートすること。その方法はワクチンや必須栄養素の摂取、飼料酵母細胞壁成分、ペグボビクラスチムなどがある。なかでも酵母βグルカンの飼料酵母細胞壁成分は、免疫細胞を活性化させ、腸内病原体を抑制する可能性がある。
一方で、寛容を促進し、反応につなげない対策も存在する。その方法は生菌剤などを直接給飼することによる微生物の良い働きや、オメガ3脂肪酸、非ステロイド性抗炎症剤(NSAIDS)、植物由来の化学物質などがある。紹介されたNSAIDSの試験では、NSAIDSの一種であるサリチル酸ナトリウムとメロキシカム、プラセボ(対照区)の投与をし、分娩後の立ち上がりや在群割合を調査したところ、NSAIDS投与区ではいずれも対照区に比べ良好な結果となった。NSAIDSは跛行リスクに対しても影響を及ぼし、跛行リスクが減り淘汰が減った。
また植物由来の化学物質としてコガネバナをあげ、体細胞数の減少や乳房炎リスクが軽減されたデータを示した。
一方で、抗炎症作用使用には本来必要な炎症までブロックしてしまう恐れがある。必要な炎症を受け入れながら早期解消に努めるのが重要である。初手の炎症ブロックの対策として「分娩房でワクチン接種をしない」ことが重要。研究データでは、分娩房でワクチン接種をした牛は分娩1カ月後の疾病発生率が約2倍になり、経産牛では分娩後4週目の乳量が約4kg減少した。
乳牛の免疫システムを維持するための注意点として、飼料や医薬品は免疫システムに影響を与えることを理解すること、免疫は本来バランスを保っている状態が正常であり、どちらに傾きすぎても良くない。それを理解したうえで、飼料など製品を選ぶ際は「免疫に良い影響だけ与える」と表記する製品に注意すること。移行期向けの製品の投資利益率は、日単位でなく、年単位で計算して考えるべきであると同博士はまとめた。
フレッシュ牛への給飼戦略
講演6)ではフレッシュ牛への給飼戦略がその乳期のパフォーマンスに与える影響について解説が行なわれた。フレッシュ牛の給飼戦略の選択肢はコリンやクロムの給与、植物由来の抗炎症成分(上記のコガネバナなど)、フリーチョイスでの乾草給与などさまざまあるなかで、同博士は「1頭当たり乳量を2kg/日増やすためには」という視点でいくつかの方法を紹介した。
栄養面からのアプローチとして紹介されたコリンの給与に関する試験では、コリンを給与することはLPS投与(炎症を引き起こす素)の影響を抑え、キャリーオーバー期間(分娩後22~84日)の乳量が最大4kg/日増えた。
移行期トラブルを予防することによる生産量増への取り組みでは、LPS投与をすると、少なくとも2カ月間は2kg/日の乳量減が続くことがわかり、周産期疾病予防の重要性が示された。
そのほかの選択肢として同博士は、淘汰を減らして生産寿命を延ばすことを提案した。生産性と収益性は4から5産目まで増加することがわかっており、早期の淘汰は乳牛のポテンシャルを引き出せないだけでなく、初産牛の割合を高めるため経済的ではないとした。それを実現するためには、周産期疾病の予防、良好な繁殖サイクルの実現が重要とし、そのためのボディコンディション・スコア(BCS)コントロールが肝要とした。分娩時のBCSは2.75から3.0であることが理想としているが、米国と日本の違いや農場の背景によっても異なる。しかし共通して重要なことは、分娩前後をとおしてBCSの増減が少ないこと。これらすべての管理は密接につながっており、総合的な対応が必要であると同博士はまとめた。
PROFILE/ 筆者プロフィール
前田 真之介Shinnosuke Maeda
Dairy Japan編集部・北海道駐在。北海道内の魅力的な人・場所・牛・取り組みを求めて取材し、皆さんが前向きになれる情報共有をするべく活動しています。
取材の道中に美味しいアイスと絶景を探すのが好きです。
趣味はものづくりと外遊び。