酪農役立ちコラム

水本牧場ブログ50:これからも、日本で安心して牛乳を飲める未来のために

JOURNAL 2026.09.19

今回は牛舎の中の話ではなく、酪農という産業をこの先も残していくために、私たちが社会に向けて何を伝えるべきなのかを考えてみたいと思います。

まず、酪農という産業が置かれている状況を理解する必要があります。

▼前回の記事はこちら
水本牧場ブログ49:観察イノベーション

1. 酪農は、外的要因と大きな投資を抱える産業

酪農経営は、天候、疾病、飼料価格や燃料価格の高騰、為替変動など、生産者個人の努力だけではコントロールできない外的要因に大きく左右されます。

また、牛を飼い、生乳を生産するためには、牛舎、搾乳施設、搾乳ロボット、堆肥処理施設、飼料保管施設、土地など、多額の設備投資が必要です。

一度、大きな投資をして経営を始めると、景気や牛乳の需要に応じて簡単に生産を増減させることもできません。牛は生き物であり、生乳生産は工業製品のように「明日から生産を倍増にする」といった調整ができないからです。

さらに、経営を続けるためには、設備の更新や修繕、飼料・燃料などの継続的な費用も必要になります。

つまり酪農は、多額の資金を必要とする一方で、外的要因による影響も非常に大きい、難しい産業です。

だからこそ、現在進んでいる酪農家の減少を、単に「農家個人の経営努力の問題」として捉えるべきではありません。

2. 集会等で「農家の所得を守ってほしい」と訴えることへの疑問

こうした厳しい状況を考えると、酪農家が「所得を守ってほしい」「経営を維持できるようにしてほしい」と訴えたくなるのは当然です。

しかし、集会などで社会や消費者に向けて、「酪農家の所得を守るために牛乳を買ってください」と訴えるニュース等を見ると、直接的な訴えは、慎重に考える必要があると思います。

なぜなら、消費者自身も物価高などによって生活に負担を感じている中で、「農家の所得を守るために、あなたが牛乳を買ってください」と訴えると、「なぜ自分の家計が、農家の所得を守るために負担しなければならないのか」という受け止め方をされる可能性があるからです。

また、集会等で「所得を守る」という主張を前面に出しても、それがそのまま消費者の購買行動や、酪農経営の長期的な安定につながるとは限りません。

農家の所得を守ることは重要ですが、それを社会に向けた最終的なメッセージにすることには、私は疑問があります。

3. 「農家の所得」ではなく「国内生産を安定させる」という視点へ

では、何を社会に対して訴えるべきでしょうか。

私は、主張の中心を、「酪農家の所得を守ってください」から、「日本の国内生産を安定させ、将来にわたって国産の牛乳・乳製品を安定して供給できる生産基盤を守ってください」へ変えるべきだと考えます。

これは、単に言葉を変えるということではありません。
「所得を守る」という表現では、酪農家個人への支援という印象が強くなります。

一方、「国内生産を安定させる」という表現にすれば、酪農家だけの問題ではなく、日本の食料供給、地域経済、食料安全保障、そして消費者自身の将来に関わる問題として捉えることができます。

酪農家が減少し、国内の生乳生産基盤が弱くなれば、将来的に牛乳や乳製品を安定して供給することが難しくなる可能性があります。

したがって守るべきなのは、単に「現在の農家の所得」だけではありません。

日本国内で生乳を生産し続けられる環境そのものを守ることが重要です。

その結果として、生産者が適正な所得を得て経営を継続できることにつながります。

4. 消費者にお願いするのは「農家支援」ではなく「国産を選ぶこと」

だからこそ、消費者の皆様にお願いしたいことも、「酪農家を助けるために牛乳を買ってください」ではありません。

そうではなく、「これからも日本で、安心して国産の牛乳を飲める環境を残すために、国産牛乳・乳製品を選んでください」というメッセージにするべきだと思います。

毎日の買い物の中で国産牛乳を選ぶことは、日本国内の生乳需要を支え、国内の生産基盤を維持することにつながります。

それは、農家を一方的に助けてもらうということではありません。

消費者にとっても、将来にわたって国産の牛乳を安定して手にするための選択なのです。

5. 国・生産者・消費者、それぞれの役割

もちろん、国内生産の安定を消費者の購買だけに任せるべきではありません。

国や自治体には、生産者が将来にわたって経営を継続できる環境を整える役割があります。

飼料・エネルギー価格高騰への対応、設備投資への支援、防疫・災害対策、省力化や生産性向上への支援など、政策として取り組むべき課題があります。

酪農家や乳業メーカーにも、安全・衛生管理を徹底し、品質の高い牛乳を安定して届ける努力が求められます。

そして消費者には、その価値を理解した上で、国産牛乳・乳製品を選んでいただくという役割があります。

つまり、国は生産基盤を支える。
生産者・乳業は品質と安定供給を支える。
消費者は国産を選ぶ。
という、それぞれの役割を明確にすることが重要です。

6. 私たちが訴えるべきこと

私たちが集会や広報活動、消費拡大運動などで社会に訴えるべきなのは、「酪農家の所得を守ってください」という一面的な主張ではなく、「日本の国内生産を守り、将来にわたって国産牛乳を安定して供給できる生産基盤を維持してください」という、より大きな視点からの主張ではないでしょうか。

農家の所得を守ることは、酪農経営を継続するために当然重要です。

しかし、所得を守ることを目的にするのではなく、
「国内生産を安定させる」
 ↓
「生産者が経営を継続できる」
 ↓
「国内の生乳生産基盤が維持される」
 ↓
「消費者が将来も国産牛乳を安定して購入できる」
という循環をつくることこそが重要だと考えます。

日本で国産牛乳を飲める未来を残すために

私たち酪農家は、衛生管理や品質管理を徹底し、安全で良質な国産生乳を安定してお届けするために、日々努力しています。

しかし、飼料やエネルギー価格の上昇、設備投資の負担、酪農家の減少など、日本の生乳生産を支える基盤は厳しい状況にあります。

だからこそ、酪農を一部の農家だけの問題としてではなく、日本の国内生産と食料供給を支える重要な産業の問題として考えていただきたいと思います。

国には、生産者が将来にわたって生産を続けられる政策と環境づくりを。
酪農家・乳業には、安全で良質な牛乳を安定して届ける努力を。
そして消費者の皆様には、これからも日本で国産牛乳を安定して飲める未来を残すために、国産牛乳・乳製品を選んでいただきたい。

「酪農家を助けるために買ってください」ではなく、
「自分たちと家族の食の未来、そして日本の国内生産を守るために、国産を選ぶ。」

そのような考え方を社会全体に広げていくことが、これからの酪農を守るために重要なのではないでしょうか。

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PROFILE/ 筆者プロフィール

水本 康洋

水本 康洋

1983年、別海町の酪農家生まれ。
北海道立農業大学校卒で、帯広市の酪農ヘルパーを経て、実家に就農。
その後、実家を離れ、浜中町にて研修後、2016年4月に新規就農し、現在に至る。

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