7月9日、10日の二日間にわたり、沖縄県那覇市で「第53回全国酪農青年女性酪農発表大会」が開催されました。
当日は台風9号の影響で、一部欠席者も出るほどの状況でしたが、会場には全国から約350名の酪農生産者や関係者が集まり、熱気あふれる発表が繰り広げられました。
今回は、全11題のなかから見事「農林水産大臣賞」と「意見・体験の部 最優秀賞」を受賞された、お二人の取り組みをご紹介します。
繋ぎ牛舎のDX化で経営効率化 長恒 泰裕氏(岡山県真庭市)
経営発表の部で、最高賞である農林水産大臣賞に輝いたのは、岡山県真庭市・蒜山地域で酪農を営む長恒 泰裕さんです。

長恒牧場では、現在経産牛120頭、育成牛68頭を飼育しています。
近年は規模拡大のために「フリーストール牛舎」へ移行する酪農家が多いなか、長恒さんが選択したのは「繋ぎ牛舎のままDX化を進める」という、独自の経営方針でした。
DX導入でここまで変わった
自動離脱ミルカーや自動給飼機などを導入した結果、経営がガラリと進化しました。
・搾乳効率:かつて50頭を搾乳していた時間で、倍の100頭を搾乳可能に。
・労働効率が51%向上:1人当たりの経産牛頭数が14.4頭から21.8頭へと増加。
・年間約700万円のコスト削減:地元のバイオマス発電の燃焼灰を堆肥に混ぜて草地に還元し、粗飼料自給率を39.8%に引き上げたことで、輸入粗飼料費をカット。
・生乳の品質改善で約560万円の加算金:徹底的な乳質・乳成分管理により、良質な生乳生産をクリアし収益を向上。
「3億円の重圧」を乗り越え、心と時間にゆとりある酪農へ
牛舎新設にあたり総事業費3億円を超える投資を決断した当初は「不安で眠れない夜もあった」と長恒さんは振り返ります。
それでも挑戦を続けたことで、今では空いた時間に地元の少年野球の監督を務められるほど、時間と心にゆとりある酪農を確立させました。
また、酪農への理解を深めてほしいという思いから、農業高校や行政法人などの多方面の研修を受け入れ、地域交流にも貢献しています。
地域と調和しながらスマートな進化を遂げた長恒さんの取り組みは、これからの繋ぎ牛舎酪農における省力化経営の身近なロールモデルとなりそうです。
「これからの酪農経営」に必要な3つの条件
本大会の審査では「収益性・安定性」「飼養管理技術水準」「資源循環の実践」などの6つの基準が定められていました。
松村 一善審査委員長(鳥取大学農学部・副部長)は総評として、輸入飼料に依存した規模拡大路線は限界を迎えていると言及し、今後の酪農経営が持続するために必要な要素として
① 輸入価格に左右されない地域資源・自給飼料の活用
② DX化や最新の繁殖技術を駆使したデータ主導の精密な個体管理
③ 地域社会とのつながりを深める仕組み作り
の3点を挙げました。
これらを高いレベルで体現し総合的な経営完成度で一歩リードしたことが今回の受賞を後押ししたと言えます。
経産牛肉に吹き込む「ロッソ(赤)」の情熱 荒井 芳幸氏(栃木県高根沢町・アライファーム)
酪農意見・体験の部で最優秀賞を受賞したのは、栃木県高根沢町で経産牛35頭を育てるアライファームの荒井 芳幸さんです。

自動車整備士や運送業を経て、30歳で家業を継いだ異色の経歴を持つ荒井さん。
彼が目指したのは、地元とのつながりを大切にした「テリトーリオ(イタリア語で地域)」をキーワードにする循環酪農でした。
周囲の反対を押し切り「国産飼料100%」に挑戦
輸入飼料が高騰するなか、荒井さんは「地元の飼料で育った牛を作りたい」と一念発起。
地元の稲WCS(稲発酵粗飼料)や豆腐粕、ワインの搾り粕などのエコフィードを徹底活用する計画を立てます。
当初は「うまくいくわけがない」と周囲に反対されましたが、あきらめずに挑戦を継続。
その結果、給与飼料の国産割合を約80%にまで引き上げることに成功。
また、乳飼比を、就農時の45%から35%へと圧縮したのです。
役目を終えた経産牛に、新たな命の価値を
荒井さんの挑戦は飼料だけにとどまりません。
搾乳牛としての役割を終えた経産牛を貴重な地域資源と捉え、地元のイタリア料理店とタッグを組んでブランド肉「平田ロッソ牛」(ロッソ=イタリア語で赤)としてブランディング。
赤身肉のおいしさが詰まった「SDGsな経産牛肉」として、新たなマーケットと価値を創出しました。
「牛の命を全うさせ地域と共に100年先へ、次世代へ誇りを繋ぐ持続可能な酪農を。」
そんな荒井さんの熱い挑戦は、これからの地域酪農に明るい風を吹き込み新たな可能性を示しています。
審査で高く評価された「持続可能な地域循環モデル」
審査において荒井氏の取り組みは、単なる一酪農家の経営改善報告にとどまらず、酪農の未来を切り拓く高いレベルの実践であると評価されました。
とくに、徹底した自給資料へのこだわりや地域との協力、そして搾乳を終えた経産牛の価値を見直す姿勢は酪農が目指すべき持続可能性を体現しているとしました。
また、ふるさと納税の返礼品としての活用準備など地域を巻き込んだ具体的な展開についても、「こうした形こそが全国の酪農家が目指す今後のモデルになっていくのではないか」と高い期待が寄せられました。
さいごに
今回受賞されたお二人に共通していたのは、「地域とのつながり」を大切にし、それぞれの方法で「循環酪農」をカタチにしていることでした。
酪農を取り巻く環境が厳しさを増す今だからこそ、お二人のように熱意と最新のアイデアを掛け合わせた経営スタイルが、未来の酪農を明るく照らすヒントになるのではないでしょうか。

第53回全国酪農青年女性酪農発表会に出場した、11名の発表者の皆様、本当にお疲れ様でした。
地域と調和しながら次の時代を見据え、着実に歩みを進める生産者たちの挑戦を、Dairy Japanはこれからも応援しています。
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