
乳房炎防除において重要なのは、特別な技術や高価な設備だけではありません。毎日の搾乳や牛床管理を「一貫した手順」で行なうことが、乳牛の健康維持と生産性向上に直結します。近年は、農場の規模拡大により複数の作業者が関わるケースが増え、「人によってやり方が違う」「新人とベテランで精度に差が出る」といった課題も顕在化しています。
今回は、乳房炎防除のために重要な三つの作業を、実際の農場事例を交えながら解説します。
『Dairy Japan2026年1月号』現場技術シリーズ「作業ごとのハズせない管理のポイント」より。筆者:赤松 裕久(赤松ファームクリニック・獣医師)
ご購読はこちら
① 前搾り~搾乳ユニット装着時間の平準化
前搾りから搾乳ユニット装着までの時間は、射乳ホルモンの分泌に影響し、乳房炎防除の重要なポイントです。時間のバラツキは過搾乳の原因となるため、農場内で適正な時間を共有し、誰が作業しても同じ品質を保つことが求められます。
なぜ時間管理が重要なのか
前搾りから搾乳ユニット装着までの時間は、オキシトシン(射乳ホルモン)の分泌に大きく関係します。この時間が短すぎたり長すぎたりすると射乳が不十分となり、一過性の過搾乳が起こり、乳房炎の誘因になります。
一般的な目安は以下のとおりです。
- 標準:60~90秒
- 許容範囲:最大120秒程度
重要なのは「何秒が正解か」よりも、農場内でその範囲を統一することです。
パラレルパーラーでの改善事例
あるパラレルパーラー農場では、新人作業者が4頭1セットで作業すると装着までの時間が大幅に延び、逆に急がせると乳頭清拭が雑になる、という課題がありました。
そこで、以下の三つの運用に変更しました。
- 新人は2頭1セットからスタート
- 習熟後に4頭1セットへ移行
- 第三者が定期的に搾乳立会を行ない時間を確認
前搾り~装着時間が60~90秒に集約され、作業品質が安定しました。
② 乳頭清潔スコアの平準化

乳房炎は乳頭口からの感染が多く、搾乳直前の乳頭清浄度が発生リスクを左右します。「乳頭清潔スコア」を活用し、清拭方法や判断基準を統一することで、作業者の経験差に左右されない安定した乳房炎防除が可能になります。
乳頭清潔スコアとは
「乳頭清潔スコア」とは、搾乳ユニット装着直前の乳頭の清浄度を評価する指標です。アルコール綿などで乳頭側面・乳頭口を拭き取り、汚れの程度を確認します。
- スコア1:汚れなし(理想)
- スコア2:軽度の汚れ
- スコア3:明らかな汚れ
- スコア4:多量の汚れ
乳房炎は乳頭口から感染するため、スコア1を安定して維持することが重要です。
清拭手順を統一した農場の取り組み
ある農場では、乳頭清拭方法を全員で話し合い、以下の手順に統一しました。
- 汚れがひどい場合は乳頭のみ水洗(乳房には水をかけない)
- 前搾り
- プレディッピング
- 2頭ずつ繰り返す
- 不織布タオル2枚で清拭
1枚目:乳頭側面・2枚目:乳頭口 - ユニット装着
- 搾乳終了後にポストディッピング
この手順を新人教育にも活用した結果、経験年数に関係なく「乳頭清潔スコア1」を安定して実現できるようになりました。
③ フリーバーンの衛生管理の平準化

環境性乳房炎は搾乳時だけでなく、牛床の衛生状態とも深く関係しています。敷料の配合や管理方法を平準化し、牛床を常に清潔かつ乾燥した状態に保つことが、乳房炎の発生抑制と牛の快適性向上につながります。
環境性乳房炎を防ぐために
大腸菌群や環境性レンサ球菌は、搾乳時だけでなく牛床からも感染します。とくにオガ粉由来のクレブシェラ菌は、甚急性乳房炎の原因となるため注意が必要です。
目安として、牛床中の大腸菌群数を10⁵cfu/g以下に抑えることが防除のポイントにされています。
敷料調製を見直した農場事例
あるフリーバーン農場では、以下の配合で敷料を調製し、1週間発酵させてから牛床に散布する方法を採用しました。
- 戻し堆肥
- プレナ
- 石灰(季節や水分量に応じて投入量を調整)
さらに、
- 夏季や水分が多い時期は石灰量を増量
- 作業者全員が判断基準を共有
という運用に変更した結果、牛床の乾燥度が向上し、敷料培養検査では大腸菌・クレブシェラ菌ともに不検出となりました。乳房炎の発生頭数・死廃頭数も大きく減少しています。
おわりに
乳房炎防除において重要なのは、「特別なことをする」よりも、「当たり前の作業を当たり前に続ける」仕組み作りです。
作業の平準化は、以下の三つにつながります。
- 乳房炎防除
- 牛の快適性向上
- 生産性の安定
作業者一人ひとりが作業の意味を理解し、第三者による定期的な確認を行なうことで、誰がやっても同じ品質の現場が実現できます。
日々の作業を見直すきっかけとして、本記事がお役に立てば幸いです。
▼詳しい実践方法は『Dairy Japan2026年1月号』に掲載しています。
月刊Dairy Japan定期購読ページ
▼まずは1号だけ試したい方は「試し読み」も可能です。
Dairy Japanを試し読みしませんか?
PROFILE/ 筆者プロフィール
Dairy Japan編集部Dairy Japan Editorial Department
酪農応援マガジン「Dairy Japan」編集部です。
良質な生乳生産とコストダウンに結びつく技術情報、利益を高める経営情報など酪農経営に関する情報をお届けします。




