バイオガスとルーメンは“同じ仕組み”で動いている!?
循環型酪農への道 スラリー編
バイオガスプラントは、牛達の「ルーメン(第一胃)」とよく似た構造と役割を持っています。どちらも「嫌気的な環境で微生物が有機物を分解・発酵させ、エネルギーを生み出す」点で共通しています。
バイオガスプラントとルーメンの共通性
バイオガスプラント
環境→酸素がない嫌気的な密閉空間
温度→微生物が最も活発に働くよう加温・維持
主役→微生物(分解菌、メタン生成菌など)
仕事→投入された有機物(糞尿など)をメタン発酵
生成物→電気や熱になるメタンガスと消化液(肥料)
ルーメン(第一胃)
環境→酸素がない嫌気的な環境
温度→牛の体温(約39℃)で一定
主役→微生物(繊維分解菌など)
仕事→摂取した飼料(繊維質)を発酵・分解
生成物→牛のエネルギーになる揮発性脂肪酸(VFA)とガス(メタンなど)
ご覧のとおり、どちらも「嫌気的な環境で、微生物に有機物を分解・発酵させ、エネルギーを生み出す」という根本的なメカニズムが共通しています。
スラリーの質はルーメン状態に依存する
バイオガスの効率向上には、原料となる「糞尿の質」改善が重要です。 そして糞尿の質は牛の健康、とくにルーメン状態に依存します。そのルーメン状態を把握する指標として「乳成分」があります。
私は、とくにこの二つに注目しています。
①デノボFA(デノボ脂肪酸)
「ルーメンの元気度」を測るバロメーター。デノボ(De Novo)とは「新たに合成された」という意味です。 乳脂肪のうち、ルーメン内の微生物が繊維を分解したときに作られる「酢酸」や「酪酸」を原料にして、乳腺で新しく合成された脂肪酸(短鎖〜中鎖脂肪酸)のことです。
デノボFAが高いほど、ルーメンpHが安定し、繊維分解菌が活発に働いている証拠です。
適正値→乳脂肪全体の25%以上
デノボFAが低い場合
・繊維不足
・濃厚飼料過多
→ ルーメンが酸性に傾いている可能性(ルーメンアシドーシス)
バイオガスとの関係
デノボFAが高い牛の糞尿には、発酵を助ける「元気な微生物の種菌」が豊富です。
②MUN(乳中尿素窒素)
「エネルギーと蛋白質のバランス」を測るバロメーター。牛が摂取した蛋白質は、ルーメンで一度「アンモニア」に分解されます。
微生物はこのアンモニアと「エネルギー(糖や繊維)」を使って菌体蛋白を作ります。
エネルギーが不足、または蛋白質が過剰な場合、利用しきれなかったアンモニアが増え、肝臓で尿素に変換され、血中を巡り牛乳中に排泄されます。その量を示したものがMUNです。
高い場合(例:15 mg/dl以上)
・蛋白質過剰
・エネルギー不足
→ アンモニア排泄増加、飼料ロス、環境負荷増
低い場合(例:7 mg/dl以下)
・蛋白質不足
→ 微生物増殖が不十分になり、乳量や乳蛋白が低下する可能性
バイオガスとの関係→
MUNが適正な糞尿は、発酵を阻害するアンモニア発生が少なく、スラリー原料として非常に良いC/N比を持ちます。
C/N比とは、有機物の中に含まれる「炭素(C)」と「窒素(N)」の割合です。
乳成分を見ることは、牛の飼養管理や健康管理だけでなく、糞尿(スラリー)の「品質管理」につながると考えています。
次回は今回の整理を踏まえ、「微生物」を中心にした循環の考え方についてお話しします。




