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ルミノブログ20:牛なき世界

JOURNAL 2025.05.14

泉 賢一

泉 賢一Kenichi Izumi

 こんにちは、日大の泉です。

 神奈川県に移住して、はや1カ月が過ぎました。出張以外で道外に出たことのない生粋の道産子である私が、こちらに住んで面白いと感じたことがいくつかあります。その一つに、デパ地下などでお土産を買おうと思ったとき、東京銘菓が多く、神奈川オリジナルが少ないということがあります。北海道だと、六◯亭、◯イズ、石◯製菓、きの◯や、柳◯など、迷ってしまうほどの多彩な地元お菓子メーカーがありますが、神奈川県ではやや地味な印象を受けました。どなたか、私が里帰りするときにオススメの神奈川土産があれば教えていただけませんか。

牛なき世界

さて、4月の後半、東京品川で世界的な飼料メーカーであるオルテック社主催の「World Without Cows ~牛なき世界」上映会に参加してきました。

皆様ご存知のとおり、ウシをはじめとする反芻家畜は第一胃(ルーメン)に生息する微生物の力を借りることで、われわれヒトが消化することのできない、硬い繊維質を乳や肉という優れた蛋白質に変換してくれます。繊維質を食料に変えることは反芻家畜だけが有する特長で、単胃動物であるブタやニワトリにはできない芸当です。

この繊維質を丸ごと食べて乳に変えてくれるのはウシだけ

ウシのメタンについて

その一方で、ルーメン微生物は繊維質発酵の過程で、メタンを作り出します。いわば微生物の排泄物として作られるメタンは、ウシのゲップとなって大気中に放出されます。大気中のメタンは地球を温室のように覆ってしまうので、地上の熱が宇宙に逃げることを妨げます。その結果として、地球温暖化が進んでしまうというわけです。

「ウシは地球温暖化の主犯である。地球温暖化を防ぎ持続的な社会を作るためにはウシはいないほうが良い」という論調に対し、はたしてそれは真実なのか、ウシのいない世界が本当に人類に幸せをもたらすのか、映画ではそのことを検証するために制作チームが世界中を取材した映像がまとめられていました。

作品内では、ウシから得る生乳販売がただ一つの収入源であるアフリカ諸国の人々、給食で提供される1杯の牛乳が1日の唯一の動物性蛋白源であるインドの小学生など、数々の興味深い情報が紹介されていました。

ウシがメタンを出す事実については、科学的な考え方も紹介されていました。ウシ1頭が1日に排出するメタンの量は体重が同じであれば大きく変わりません。したがって、ウシ1頭から得られる生産物の量を増やしていくと、生産効率が上がり、生産量当たりのメタン生成量は少なくっていきます。同じ生乳生産量であれば個体乳量を高めて搾乳牛頭数を減らすほうが、同じ牛肉生産量であれば肥育期間が短いほうが、生産量当たりのメタン排出量は削減されます。

そのほか、ウシを飼うために熱帯雨林を切り開いて牧場が作られている国や地域があること、インドではウシの殺生が法律で禁止されているので野良ウシが大量に生息していること、植物性原料で作った人工肉が牛肉の代わりになるか、など興味深いエピソード満載でした。

この映画は、ウシが存在することによるメリットとデメリットを提示してくれて、ウシのいない世界を想像させてくれるという意味で、大変興味深いものでした。私のような研究者だけでなく、生産者、消費者、業界関係者に加え、酪農・畜産を学ぶ学生にも観てもらいたい作品でした。

PROFILE/ 筆者プロフィール

泉 賢一

泉 賢一Kenichi Izumi

1971年、札幌市のラーメン屋に産まれる。1浪の末、北大に入学。畜産学科で草から畜産物を生産する反芻動物のロマンに魅了される。修士修了後、十勝の酪農家で1年間実習し、酪農学園大学附属農場助手として採用される。ルミノロジー研究室の指導教員として学生教育と研究に取り組むかたわらで、酪農大牛群の栄養管理に携わる。2025年4月、27年間努めた酪農大を退職し、日本大学生物資源科学部に転職する。現在はアグリサイエンス学科畜産学研究室の教授。専門はルーメンを健康にする飼養管理。最近ハマっていることは料理と美しい弁当を作ること。

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