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「キホン」が大事! 搾乳ロボットの衛生管理
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「消費者に品質の高い生乳をお届けする」
酪農業が食品を生産する職業である以上、衛生面の基本を守り高品質な牛乳を消費者に提供することが最大の目標であり、永遠のテーマではないでしょうか。現在その具体的な手段として存在する搾乳機器も、時代とともに大きな変化と進化を遂げてきましたが、ほかの食品生産業と最も違う点は「牛という意志ある動物を管理する」という難しさです。
搾乳ロボットは乳質が悪い?
搾乳ロボットは、基本的に一連の搾乳作業に人間の存在を必要としないシステムであり、「搾乳作業からの解放」という概念と実績が支持され昨今飛躍的に導入が進みました。急激に稼働台数を増やすなかで、生産者から少々気がかりな声を耳にすることがあります。
「ロボットによる搾乳は乳質が安定せず、生菌数が高い傾向にある」
これは事実なのでしょうか? 搾乳ロボットだから乳質が悪いのでしょうか? なぜそのような声が生まれるのか、ここで乳質悪化の要因を考察してみます。
1.牛体衛生
牛体、とくに乳房の汚れは乳房炎感染と合わせて乳質悪化の大きな要因となります。乳頭が細菌により汚染されていれば、ミルカーを介して生乳へ混入することとなり、生菌数増加の要因となります。また、菌数が最小の場合でも、搾乳後の冷却を行なうバルククーラーの冷却能力の問題や、ライン洗浄の不備、ミルクフィルターの使い回しなどが要因となることもあります。では、牛体衛生に問題があると仮定して、通常の搾乳方法とロボット搾乳で最も違う点は何でしょうか?
引用元:Microsoft Word – UDDER HYGIENE CHART.doc (msu.edu)
それは、前述のとおり「搾乳作業に人間の存在がない」という事実です。搾乳ロボットは優れた乳頭洗浄を行ないますが、牛ごとの突出した汚れに対応できません。では、これらの条件から、乳質に対して搾乳ロボットが持つ重要な要素とは何でしょうか?
2.環境衛生
牛舎の中には牛体を汚さないための手段が多くあります。そのなかで最も有効なのは「牛床の衛生環境」です。
牛床は、牛達にとって最も多くの時間を過ごし、牛体や乳房が直接触れる場所です。可能であれば常に豊富な敷料があることが望ましく、3回/日ほどのベッドメイキングも非常に有効です。ロボット牛舎におけるスクレーパーの導入も、環境衛生の維持に貢献します。牛舎環境や頭数にもよりますが、8回/日以上の稼働により、通路の糞尿量を最小に抑え、牛の肢蹄を介した牛体汚染を最小限に留めます。また敷料が不足している場合は、牛床マットの敷設を前提にゼオライトなどを使用する工夫で常に乾燥した環境作りが有効です。
3.搾乳ロボットからの問題
ロボットは機械です。もちろん機器の不具合による要因も否定できませんが、ここでは基本設定や配置、確認作業などの重要性について触れます。牛体衛生、環境衛生の次に乳質に影響を与える要素として「搾乳ロボットの使い方」があります。稼働パフォーマンスを上げるために洗浄回数を減らす、誤ったコスト感覚からミルクフィルターを使い回す、あるいは消耗品全体の交換回数を抑える、洗剤やディッピング剤の不足に気がつかないなどに関しては、必ず推奨値を厳守することや作業ルーティンを改めて確認し、整えて管理を行なうことが求められます。
搾乳ロボット活用と牛舎環境の基本に立ち返ってみる
このように機械の不具合以外にも、衛生環境作りや管理体制が必要不可欠であることをお話ししてきました。一つ一つは難しいことではありません。「基本に立ち返ること」を今一度確認してみましょう。
牛の状態
①乳房、とくに乳頭が汚れない牛床環境を心がけましょう。敷料は足りていますか? ベットメイキングの回数は十分ですか? スクレーパーの稼働回数は十分でしょうか?
②乳房の毛刈りはまめに行ない、また尻尾の汚れにも注意しましょう。ティートカップ装着時の巻き込みなどによる乳質悪化につながります。
搾乳ロボットの状態
①自動洗浄を必ず1日3回行ないましょう。その際、洗浄水の温度は適切か、洗剤は洗浄がきちんと行なわれるものを使用しているか、改めて確認しましょう。供給業者との情報共有も良いでしょう。
②フィルターは定期的に交換していますか?
③ライナーやチューブは、適正回数で交換していますか?
搾乳ロボットが現在ほど普及する以前から、乳質悪化の要因として以下の三つの要素が常に口にされてきました。
牛5%、機械25%、人間70%
搾乳機器も進歩と変化を遂げ、時代とともに経営規模の拡大が続く昨今、このパーセンテージの信憑性は疑わしくもありますが、経営の規模拡大と労働力不足が今の搾乳ロボットの普及を後押ししたことは確かです。その現状に最も適したデータ活用による管理体系や作業ルーティンの構築が、食品生産業として「消費者に品質の高い牛乳をお届けする」を実現する最短距離なのではないでしょうか。