『Dairy Japan』2024年5月号p.42「ルポ2」より
栃木県那須塩原市の斉藤牧場は、経産牛120頭を管理しています。蹄管理を担当する田中岳陽さん(43歳)は「酪農家・獣医師・削蹄師が一つのチームとなることで良好な成果が得られる」と言います。その取り組みを聞きました。
蹄は経営を支える一つ
田中さんは「肢を痛めている牛はエサを食べに行かず、採食量が減る。乳量の低下はもちろん、繁殖にも大きく影響する」と同牧場において蹄管理の重要度が非常に高い位置づけとなっていると話します。さらに自分の肢で飼槽まで向かう必要があるフリーストール牛舎であるがゆえに、なおさら蹄管理への意識を高く持っていることがうかがえます。
違和感を感じ取る
田中さんは蹄病に罹患している可能性がある牛を発見するために「日々、常に牛を観察して普段との違いに気がつけることが重要だ」と言います。とはいえ牛舎内すべての牛の様子を1頭ずつ観察することは容易ではありません。
そこで牛を観察するなかで、とくに意識しているタイミングの一つとして、搾乳時のパーラー移動をあげます。パーラーまで牛を追い込む際に、歩くのが遅い、跛行が確認できるなど違和感にいち早く気がつけるようにしていると目を光らせます。
写真:パーラーまで行くための通路
異変を確認したら、獣医師の品田若菜さん(有限会社タマノアニマルクリニック)に連絡し診療してもらいます。品田さんは「チームとして診療にあたることで牛のスムーズな回復につながる」と言います。そこで品田さんの話す“チーム”とはどのようなことなのか、さらに詳しく聞きました。
チームで蹄管理
定期削蹄を担当するのは同クリニックの削蹄師の早川凌平さん。同牧場の定期削蹄は9月と3月の年2回行なわれますが、削蹄師は定期削蹄以外でも、蹄の診療の際には獣医師に同行する体制を取っています。これがチームで診療するということだと品田さんは教えてくれました。
普段、診療で枠場を持ち歩けない獣医師と、枠場を持っている削蹄師が一緒に診療にあたることで、蹄の診療の際に安全な診療ができます。そこに酪農家も加わり牛の状態を共有することで正確で効果的な診察や治療ができます。
再診の際にも削蹄師が同行し、ほかに診療が必要な牛や、少しでも気になる牛がいれば、そのタイミングで確認しているそうです。
こうしたチームワークが確立された診療体制により、以前に比べ蹄病や肢を痛めている牛が減ったといいます。田中さんは「削蹄師と獣医師が同じタイミングで診療に来てくれるので手間や心配が減った」と満足気に話してくれました。
予防と今後の在り方
施設面からも蹄病対策に取り組む同牧場。かつて蹄底潰瘍が多く、通路やパーラーで滑走する牛が多かったことに悩んでいたため、4年前にパーラーと待機場に滑走防止マットを導入しました。これにより滑走する牛が減り、蹄底潰瘍も減少しました。パーラー以外の通路には、薄くオガ粉を敷くことで滑走防止と蹄へのダメージ軽減に努めています。
さらに高産次で蹄や肢に問題を抱える牛は、一般の搾乳群とは別のペンで飼養しておりパーラーまでの移動距離を減らしています。「歩けなくなったらすぐに淘汰ではなく、工夫して最後まで頑張ってもらうようにしている」と田中さんはアニマルウェルフェアにも配慮していました。
田中さんは現在の蹄管理に非常に満足しており、この体制を維持したいと話します。常に牛の一番近くにいる酪農家が牛の状態を正確に共有し、削蹄師と獣医師が診察・削蹄・治療を一度に行なえる体制は牛のストレスを減少させ、牛や経営にとって良好な方向に向かっていきます。酪農家・獣医師・削蹄師が“One Team”で管理することの重要性を教えてくれました。
PROFILE/ 筆者プロフィール
小川諒平Ryohei Ogawa
DairyJapan編集部。
1994年生まれ、千葉県出身で大学まで陸上競技(走り高跳び)に励む。
趣味はサッカー観戦。
取材先で刺激を受けながら日々奮闘中。
皆さんに有益な情報を届けるために全国各地にうかがいます。