群馬県の中心部、前橋市の市街からほど近くに位置するアラトデイリーファーム。規模拡大を進め、現在はミルキングパーラー群と搾乳ロボット群の大きく二つの群を管理しています。640頭の大規模牛群で肢蹄の健康を守るためのポイントを専務取締役の野口旭洋さんに聞きました。
定期削蹄+都度削蹄
アラトデイリーファームでは、経産牛640頭全頭を年に2回定期削蹄します(6月と12月)。その削蹄日数は1回当たり3日というからスピーディーな削蹄が行なわれていることは容易に想像できます。野口さんは、「定期削蹄のタイミングでブロックを装着する牛が20頭いるかどうか」と言い、処置が必要な蹄病罹患牛の頭数が極めて少ないことを教えてくれました。
日々のハンドリングで早期発見
「肢蹄だけでなくさまざまなトラブルは早期発見・早期処置にかぎる」と野口さんは強調します。とくに従来から使うフリーバーン+ミルキングパーラーの牛舎では、パーラーへの誘導時と搾乳のタイミングが発見ポイントだと言います。
「誘導の際には無理やり追わず牛のペースに合わせてゆったり行なうこと。誤った追い方をすれば白帯病などにつながりかねない。またその際に跛行している牛を発見することになるが、追い方や観察眼はベテランのスタッフと一緒に作業することで、若いスタッフにも身につけてもらっている」と誘導の大切さを強調します。
最新の機器で蹄の健康を守る
一方で3年目を迎えた搾乳ロボット牛舎は、搾乳終了時にボックス内で水を噴射することで蹄の汚れを洗い流すだけでなく、飼槽通路に向かうゲートにオートフットバスを設置し、毎回搾乳後に蹄浴を実施するなど、最新の機器によって蹄の健康を守っています。オートフットバスは現在、2時間に1回自動で溶液交換が行なわれますが、「実際にフットバス溶液を使用するのは週に2回。それ以外は塩素添加した井戸水による蹄洗浄が主な役割となっている」と野口さん。
また、搾乳ロボット牛舎の除糞作業の際、まずは飼槽通路の除糞のためにベッド側へ乳牛を移動、その後ベッドメイクの際にセレクションゲートへ乳牛を誘導する、この両タイミングが跛行などを見つけるタイミングだと言います。
通路での滑走防止
アラトデイリーファームの牛舎はすべてフリーバーン。除糞は朝晩行なわれます。その際、通路はしっかりと除糞した後、コンクリートでの滑走を防ぐため戻し堆肥やおがくずを滑り止めのために撒きます。通路には溝切りが施されていますが、水分調整をすることでさらに滑りにくい通路に仕上げています。
野口さんは、「フリーバーンは肢蹄への負担が少ないベッド。通路の滑走防止に気を遣うことでさらに負担を軽減している」とそのわけを話します。
分娩後2週間は要チェック
アシドーシスも蹄病の原因の一つ。そこで野口さんは「分娩後が一番アシドーシスリスクが高いので、分娩後2週間は要注意期間として体調のチェックを行なっている」ととくに注意すべき時期を教えてくれました。そして、「飼料調製の担当スタッフには、毎回、同じ品質のTMRを調製するように注意を払ってもらっています。例えば、ミキサーの回転時間をきっちりと守ることなど」とTMR調製のポイントを話します。
定時AIが主体だが……
肢蹄と繁殖の関係について野口さんに聞くと、「うちでは90%が定時人工授精(AI)で、とくに従来の牛舎は100%定時AIだから」と前置きしたうえで、「例えば搾乳ロボット牛舎で約10%、発情が来た牛にAIすることがあるが、その発見は乗駕で見つけています。とくに乗駕しにくいとか、しないとかといったようには見えない」と答え、その理由の一つにフリーバーンで床やベッドが安定していることなどがあるだろうと言います。
PROFILE/ 筆者プロフィール
前田朋宏Tomohiro Maeda
Dairy Japan編集部・都内在住。
取材ではいつも「へぇ!」と驚かされることばかり。
業界に入って二十数年。普遍的技術、最新の技術、知恵と工夫、さまざまな側面があるから酪農は楽しい!