『Dairy Japan』2024年4月号p.38「ルポ2」より
栃木県那須塩原市で経産牛240頭を飼養する株式会社佐藤牧場。治療を担当する寺内動物病院の寺内宏光獣医師からも「分娩や周産期の事故がとにかく少ない」と一目置かれています。同牧場に分娩や周産期に事故を起こさない工夫を聞きました。
低カルシウム血症低減に向けて
同牧場代表の佐藤和幸さんが分娩事故や周産期病に対する取り組みを始めたのは約10年前。「10年以上前は分娩後に体調を崩す牛が多く、治療費や手間が増えてしまっていた」と振り返ります。それを打開するべく、第四胃変位やケトーシスの引き金となっていた低カルシウム血症を減らすことを優先的に考え、「低カルシウム血症にさせない・ならない」ための取り組みを始めました。
粗飼料のカリウム含量に注目
まず、乾乳期に与える粗飼料のカリウム含量に焦点を当てました。それまでメインで給与していたオーツヘイから、カリウム含量の低いチモシーに変更しました。それにより、低カルシウム血症により立てなくなる牛が激減したと言います。
しかし、飼料高騰と輸入チモシーの供給停止により、現在は複数のチモシーとチモシーストローを混合した粗飼料を与えています。以前使っていたチモシーに比べ高カリウムになってしまいましたが、佐藤さんは依然として乾乳期の粗飼料の品質にこだわっています。
低カリウムのチモシーから現在のチモシーに変更した影響で、以前のように立てなくなる重症の牛はいないものの、分娩後にふらつく牛がしばしば見られるようになりました。そのため、飼料分析を行なったうえで、昨年9月から不調の牛にはイオンバランス調整剤とマグネシウムの添加剤を加えたエサを個別に給与しています。この甲斐あって、現在は分娩後も健康でいられる牛が増えたと話しています。
ストレスを与えない
同牧場の乾乳舎は7ペンあり、1ペン当たり5頭管理しています。密飼いを避けることも周産期病や事故を予防するポイントだと佐藤さんは考えています。牛がグループを移動する際に感じるストレスを軽減するため、1頭だけを移動させることは極力避け、同時期に乾乳に入った5頭を同じタイミングで別のペンに移動させるよう心がけています。この方法を始めてから、周産期に病気にかかる牛が減ったと言います。佐藤さんはこれが事故を防ぐために最も重要だと考えています。
同牧場では、分娩後のフレッシュペンを三つに分けています。乾乳軟膏が抜けるまでのホスピタルペン、その後に移動する通常のフレッシュペン、そして不調の牛が特別集中治療を受けるペンです。「どうしてもすべての牛が順調にいくわけではない。牛の状態に合わせた管理が必要」と佐藤さんは話し、牛の状態に合わせた管理を徹底しています。
また分娩房を設けていない同牧場は、基本的に乾乳舎でそのまま分娩を行ないます。以前は分娩房を設けて分娩直前で牛を移動していましたが、場所を変えたことによるストレスからスムーズな分娩をできないことが多く、今のやり方に変更してから分娩事故が減ったと佐藤さんは言います。
自農場を把握する
周産期疾病や分娩事故が減ったメリットは、治療や分娩介助に使う時間がなくなったことだと言います。
寺内獣医師も、「自身の農場と牛群の解像度がすごく高い」と太鼓判を押します。同農場は、酪農とちぎ農業協同組合および飼料メーカーと2週間に一度ミーティングを行ない、現状や課題を共有し、トライ&エラーを重ねて牛の飼養管理方法を日々更新しています。また、糞洗いとTMRのパーティクル・セパレーターを用いた飼料評価も2週間に一度実施し、重大な問題になる前に対処しています。さらに常に課題を持ってチェックを行ない、対策し、結果を共有するというPDCAサイクルが徹底されています。
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PROFILE/ 筆者プロフィール
小川諒平Ryohei Ogawa
DairyJapan編集部。
1994年生まれ、千葉県出身で大学まで陸上競技(走り高跳び)に励む。
趣味はサッカー観戦。
取材先で刺激を受けながら日々奮闘中。
皆さんに有益な情報を届けるために全国各地にうかがいます。