『Dairy Japan』2024年4月号 p.46 ルポ3より
分娩トラブルは、子牛の健康はもとより母牛の産乳成績や農場の経営にも大きな影響を与えます。当ルポでお話しをうかがった兵庫県神戸市の株式会社神戸渕上牧場では、和牛受精卵産子も経営の柱の一つで、その管理の繊細さには定評があります。
分娩タイミングを調整
「経産牛は分娩15日前に乾乳牛舎から搾乳牛舎に移動し、搾乳牛とともに群飼いへ。初産牛は遅くとも分娩2週間前、通常は1カ月前に搾乳牛群に移動します」と三男の渕上裕章さん。とくに初産牛を早めに移動させるのは、環境変化によるストレスの緩和と搾乳牛群への慣れを意識してとのこと。そして分娩棒には分娩予定日に移動しますが、渕上牧場では分娩促進剤によって分娩タイミングを調整していると言います。
現在分娩の約8割が和牛子牛という同牧場では、分娩日を少し前倒しすることで過大子のリスクを抑制する意味合いもあると教えてくれました。
分娩後は迅速に子牛ケアを
分娩後の子牛のケアについて長男の浩台さん、裕章さんに聞くと、以下のような流れを話してくれました。
・速やかに羊水を排出させる
・前足も後ろ足も開いて自発呼吸を確認
・約40℃のお湯で体を洗浄。この段階で徹底的にきれいにする
・洗浄時にたわしでマッサージ
・その後タオルでリッキング
・臍帯の内部を消毒
・臍の消毒
・初乳給与(自力で飲める子は哺乳瓶で、そうでない子はストマックチューブを使用)
・整腸剤の給与
・カーフウォーマーで保温
という流れ。特筆すべきは初乳給与までの流れが約1時間という素早さ。分娩監視をしっかりし、ほぼすべての分娩に立ち会うことでその後の一連の作業がスムーズに進んでいる結果です。
カーフウォーマーで約6時間保温した後は、ハッチに移動して鼻腔粘膜ワクチンを投与している。
初乳は生と製剤どちらも使用
給与する初乳について聞くと、同牧場の特異的な管理を教えてくれまし。それは和牛「但馬牛」の子牛では、出荷先の農家からの要望によって、必ず初乳製剤を給与するというもの。BVD対策がその一つの要因ではないかと浩台さんはしび理由を話してくれました。
そのほかのケースでは母牛の初乳が少ない場合には初乳製剤を、初乳が薄いと判断されるときは初乳製剤とミックスして給与していると言います。「保険的に初乳製剤を加えることが多い」と二人は口を揃えます。
双子も単子も同様に
前述したとおり同牧場の分娩予定牛の移動は約2週間前と早いものです。環境馴致やストレス低減が主な要因ですが、「早産対策の意味もあります」と浩台さん。「受精卵移植の場合、2個戻しを行なうこともあって双子の率が高くなります。そのため乳の張りなどにも注意して早産であっても対応可能なように事前の準備をしているのです」とその理由を教えてくれました。
では双子の場合、特別なケアが必要なのでしょうか。浩台さんは「双子も単子も変わらない」と答え、「むしろ双子のほうが胎子のサイズが小さく、難産になることは少ないですね」と教えてくれました。ただ「双子の場合でも単子の場合でも、分娩後に残っている子がいないかの確認は必ず行ないます」と言い、分娩後に手を入れて入念にチェックするのだと教えてくれました。
PROFILE/ 筆者プロフィール
前田朋宏Tomohiro Maeda
Dairy Japan編集部・都内在住。
取材ではいつも「へぇ!」と驚かされることばかり。
業界に入って二十数年。普遍的技術、最新の技術、知恵と工夫、さまざまな側面があるから酪農は楽しい!