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寺内宏光ブログ3:OPU−IVF技術

JOURNAL 2024.06.13

寺内 宏光

寺内 宏光Hiromitsu Terauchi

 らくちっくラジオの寺内です。

 前回は、ゲノム検査の発展によりバランスの良い牛群改良が実現できるようになったという話をしました。今回は、そんな牛群改良を圧倒的に加速させる方法としての「OPU-IVF技術」について簡単に解説します。

 「OPU」とは「Ovum Pick-Up」の略で日本語では「経膣採卵」、「IVF」は「In Vitro Fertilization」の略で「体外受精」を意味します。本来は採卵→体外受精→受精卵移植までが一連の流れになるため(移植しなければ意味がない!)、「OPU-IVF-ET」とひとまとめに表記する場合もあります。
 また、IVFの意味する体外受精よりも受精卵を生産することに重きを置いた「IVP」(In Vitro Production=体外胚生産)のほうが適切という意見もあります。

工程図

 さて、OPUとはいったい何をしているのでしょうか?
 なかなか想像が難しいと思いますが、やっていることは針を直接卵巣に刺して卵子を吸い取る作業です。左手で直腸検査する場合は、左手で直腸から卵巣を軽く握り、右手で持った超音波プローブを膣に挿入して、膣壁越しに卵巣に押し付けます。プローブにはとても細長い針が付いており、超音波画像で卵巣内を見ながら、右手で針の出し入れをしつつ約3mm以上の卵胞を吸引していきます。

OPU模式図

 吸引される卵子は未熟なため非常に弱く、日光や温度変化で傷付くとIVFの工程で成熟した受精卵まで発生できなくなってしまいます。したがってOPUを実施する環境には直射日光を遮ることと、ある程度の温度管理が求められます。また精密な作業のため牛が尻を振れないようしっかり保定されていることも重要です。

卵胞液吸引動画

 吸引した卵胞液は血液や不純物と混ざっているため、卵子を顕微鏡でピックアップして洗浄する検卵作業を経て培養します。検卵は衛生的な環境でなければならないので、弊社ではどこでも完璧な検卵ができるよう専用の検卵車を用意しました。プロフェッショナルは道具や環境にこだわらなければなりません! このような工程を経てOPUによる体外胚生産は行なわれます。

検卵車内

 OPUには従来の採卵(体内胚生産)とは異なる点が多く、実施するうえでの利点と課題があります。

 とくに発情中でなければ問題なく、妊娠初期の子宮が大きくない時期まで実施可能なのは大きな利点です。従来の採卵では同じ牛への実施に2カ月間を空けなければならなかったのに対し、OPUを隔週で行なった場合は人工授精したうえで2カ月間に4回以上のOPUが可能です。ホルモン剤の副作用や特別な添加剤も必要ありません。無駄のなさをご理解いただけたでしょうか。

次回は、ゲノム検査とOPUを実際の牧場経営にどう活かせるのかについてお話しします。

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PROFILE/ 筆者プロフィール

寺内 宏光

寺内 宏光Hiromitsu Terauchi

北海道にて酪農場勤務と㈱トータルハードマネジメントサービスでの修行を経て、2016年より栃木県にて家業の寺内動物病院を三代目として継承。より広く地域のニーズに応えるため2022年より法人化し、現在は獣医師4人在籍する㈱寺内動物病院の代表

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