酪農役立ちコラム

水本牧場ブログ55:牛群の「ワーク」と「ビルディング」を分けて考える

JOURNAL 2026.11.02

水本牧場ブログ55 アイキャッチ

酪農経営において、牛群を考えるときには、牛群を働かせること(Work)と、牛群をつくること(Building)を分けて考えるという視点が重要です。

この2つは密接につながっていますが、目的も、評価する指標も、時間軸も異なります。

ワーク&ビルディング:ワーク(今いる牛群をどう働かせるか)とビルディング(これからどんな牛群をつくるか)の比較

▼前回の記事はこちら
水本牧場ブログ54:トレハロース給与後に見られた変化

1. 牛群のワーク(Work)

ワークとは、現在いる牛群の能力を引き出し、日々の生産と経営成果につなげることです。

単純に乳量の多い牛を増やすことではなく、今いる牛たちが持っている能力を十分に発揮させ、牛群全体として生産性を高めていくことを意味します。

主な検討項目は次のとおりです。

  • 栄養管理:乾物摂取量、飼料設計、ルーメン発酵、栄養バランス
  • 繁殖管理:発情発見、授精適期、受胎確認、分娩管理
  • 健康管理:乳房炎、蹄病、代謝性疾病、周産期疾病の予防
  • 環境管理:暑熱対策、牛床、換気、飼槽、水槽
  • 搾乳管理:搾乳手順、乳質、搾乳速度、作業効率
  • 観察と改善:採食、反芻、糞便、乳量、乳成分、体細胞数の変化

ワークでは、牛の能力を知るだけではなく、その能力が現場で発揮されているかを観察し、発揮されていない場合には原因を探ることが重要です。

例えば、乳量が低下したとき、遺伝的能力の問題と判断する前に、採食量、暑熱ストレス、疾病、飼料の変化などを確認します。

牛群の能力を正しく評価するためにも、ワークとビルディングの区別が必要です。

2. 牛群のビルディング(Building)

ビルディングとは、将来の酪農経営を支える牛群を計画的につくり上げることです。

単純に乳量の多い牛を増やすことではなく、自分の経営に合った牛を選抜し、世代を重ねながら、牛群全体の能力を高めていくことを意味します。

主な検討項目は次のとおりです。

  • 遺伝的能力:乳量、乳脂肪、乳蛋白、繁殖性、体細胞数など
  • 長命連産性:肢蹄、乳器、体型、疾病への強さ、供用年数
  • 繁殖能力:受胎性、分娩間隔、初産月齢など
  • 搾乳適性:搾乳速度、気質、搾乳施設との適合性
  • 牛群構成:産次構成、更新率、後継牛の確保
  • 交配計画:種雄牛の選定、近交回避、遺伝的欠点の補完

例えば、乳量が高くても、繁殖性が低く、疾病が多く、早期に淘汰される牛ばかりでは、牛群全体の生産性が安定しない可能性があります。

そのため、個体の能力だけでなく、何年にもわたって牛群に貢献できるかという視点が必要です。

3. ワークとビルディングは、相互に影響する

この2つは分けて考えるべきですが、切り離して考えるものではありません。

ワーク

今いる牛群の能力を引き出し、生産成果につなげる。

飼養・繁殖・健康・環境・観察・改善。

ビルディング

将来の経営に必要な牛群を設計する。

遺伝・選抜・交配・更新。

そして、ワークで得られた結果を、次のビルディングにつなげていく。

どんな牛が自分の牧場で長く、安定して働けたのか。

どんな牛が自分の牧場に合っていたのか。

その答えを次の牛群づくりに反映させる。

つまり、ワークとビルディングは、それぞれ独立したものではなく、「現在」と「未来」をつなぐ循環として考えることができます。

4. 最も大切な考え方

ワーク&ビルディングとは、単に牛を管理するための考え方ではありません。

今いる牛をどう働かせるか。
そして、これからどんな牛をつくっていくのか。

その二つを考えることは、「今」と「未来」を考えることでもあります。

今の牛群は、これまで積み重ねてきたビルディングの結果です。

そして、今日のワークで得られた経験や気づきが、次のビルディングにつながっていきます。

だから、牛群づくりに完成はありません。

牛を見て、考え、働かせる。
働いた結果を見て、また考える。

その繰り返しの中で、牛群も、牧場も、少しずつ形を変えていく。

ワーク&ビルディングとは、牛群を育てながら、同時に自分の経営を育てていく考え方なのだと思います。

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PROFILE/ 筆者プロフィール

水本 康洋

水本 康洋

1983年、別海町の酪農家生まれ。
北海道立農業大学校卒で、帯広市の酪農ヘルパーを経て、実家に就農。
その後、実家を離れ、浜中町にて研修後、2016年4月に新規就農し、現在に至る。

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