酪農役立ちコラム

酪農場のリアルを描いた漫画に出会いました ルミノブログ32

JOURNAL 2026.06.03

泉 賢一

泉 賢一Kenichi Izumi

 原稿執筆時点ではまだ5月下旬ですが、関東圏ではすでに30度の声があちこちで聞こえてきました。今年も暑い夏が待ったなしで、すぐそこまでやってきているようです。

 先日、民間の酪農場に研究打合せのため訪れましたが、調査の段取りをしているだけで汗だくになりました。ウシは第一胃という巨大な発酵発熱臓器を持っていますので、私たちの比ではない暑さに耐えているのだと思います。牧場長が口にした「夏場は残飼がどっさり余るんです」という言葉は、暑さにあえぐウシの様子を如実に表していました。

仕事と生活が重なる酪農業

 さて、今回は、いつもと少し趣を変えて、書籍を紹介しようと思います。北海道時代からの親しい仕事仲間であるY獣医師が監修を務めている漫画『まきばのカルテ 産業動物臨床獣医師 三海佑』(ゼノンコミックス)です。

 第1巻の帯には、「だから僕は、牛だけじゃなく、“人”も救う獣医師になった」とあります。

 私はこれまでに様々な酪農家に会い、酪農場を実家に持つ学生たちとも接してきました。その中で強く感じてきたのは、酪農業は歴然とした「生業(なりわい)」であり、「生活の糧を得るための仕事」だということです。

 また、牧場は職場であると同時に、家族とともに暮らす生活の場でもあります。利潤を上げるために日々努力を重ねる場所でありながら、家族と過ごす安息の場でもある。それが酪農場なのだと思います。

 私の遠い記憶には、北海道を舞台に描いた名作ドラマ『北の国から』で、岩城滉一さん演じる草太兄ちゃんが経営する近代的な牧場が残っています。主人公の五郎さんが、リサイクルや有機的な暮らしを大切にする人物として描かれていたのに対し、草太兄ちゃんの牧場は、近代化・機械化された酪農の象徴のように描かれていました。

 しかし、その牧場は経営がうまくいかず、最後は倒産してしまいます。若かった当時の私は、近代化や機械化を進める酪農は悪いことなのだろうかと、どこか腑に落ちない気持ちでドラマを見ていた記憶があります。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

 酪農業界のリアルを汲み取る

『まきばのカルテ』では、生産現場、臨床現場を舞台に、酪農家の生活が描かれています。現場に精通したプロフェッショナルが監修しているからこそ、物語の細部にリアリティがあります。病気の牛を診るだけではなく、その背後にある家族の事情、経営の悩み、牧場スタッフとの関係までが描かれており、酪農を知る人ほど深く刺さる内容だと感じました。人手不足にあえぐ牧場や、大きな投資をしたであろうロータリーパーラーのある牧場など多様な場面が登場します。

酪農家の幸せや苦悩がきれい事ではなく描かれていて、読みながら心を動かされました。登場する牧場はそれぞれ問題を抱えていますが、主人公の三海獣医師との関わりを通じて、家族や牧場スタッフが少しずつ絆を深めていきます。

牛を診ることは、牧場を診ることでもあり、人を診ることでもある。そんな産業動物臨床の奥深さが伝わってくる良作でした。

最後に、一つだけ補足するとすれば、コミックは連載当時と時差があります。連載開始時や企画段階とは異なり、少しずつ酪農を取り巻く経営環境も上向きになってきていることはお伝えしておきます。

読後感も爽やかで、酪農関係者にはおすすめの一冊だと思いました。

記事についてのお問い合わせ

PROFILE/ 筆者プロフィール

泉 賢一

泉 賢一Kenichi Izumi

1971年、札幌市のラーメン屋に産まれる。1浪の末、北大に入学。畜産学科で草から畜産物を生産する反芻動物のロマンに魅了される。修士修了後、十勝の酪農家で1年間実習し、酪農学園大学附属農場助手として採用される。ルミノロジー研究室の指導教員として学生教育と研究に取り組むかたわらで、酪農大牛群の栄養管理に携わる。2025年4月、27年間努めた酪農大を退職し、日本大学生物資源科学部に転職する。現在はアグリサイエンス学科畜産学研究室の教授。専門はルーメンを健康にする飼養管理。最近ハマっていることは料理と美しい弁当を作ること。

error: クリックできません!